2021年、松本清張賞を満場一致で受賞し、21歳の現役大学生による破格のデビュー作として話題になった波木銅さんの『万事快調〈オール・グリーンズ〉』が、この冬満を持して映画化する。南沙良さん演じる朴秀美は、SF小説を愛しラッパーを夢見ながら鬱屈した毎日を送る女子高生。彼女のクラスメイトで、いつもクラスの中心にいる映画好きの矢口美流紅を出口夏希さんが、漫画好きで毒舌家の岩隈真子を吉田美月喜さんが演じた。本作はそんな3人の女子高生が、未来が見えない田舎町でのどん詰まりの日々から抜け出そうと、禁断の課外活動を始める物語だ。脚本も務めた児山隆監督、南沙良さん、そして原作者の波木銅さんが、原作小説と映画の関係や本作への思いを存分に語る。
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児山 1月16日から公開になる映画『万事快調〈オール・グリーンズ〉』には波木さんによる原作小説があります。僕はこの小説のことを知ってすぐ本屋に行ったんですが在庫がなく、早く読みたかったのでそのまま図書館に行って借りてきました。読み始めたら止まらなくて一晩で読んでしまいました。
波木 ありがとうございます。うれしいです。
児山 既存の表現に対する反逆心がある作品なのではと感じました。「こう来るだろうな」といういわゆるクリシェみたいなものを利用しながらも、結果的にはクリシェにならない表現をやろうとしているし、やれている。そこがすごく嬉しかったし、ワクワクしたのが第一印象です。構成もいい意味で乱暴で、特に物語の畳み方のスピード感に痺れました。自分が脚本を書く時もそうですが、普通はいわゆる序破急で、ここで盛り上がって、ここでクライマックスがあって、となんとなくの配分を考えるんですよね。でもこの小説を読んで「そういう配分って、考えなきゃいけないんだっけ」と思わされて、それがすごく気持ち良かったです。物語がめちゃくちゃ氾濫している今、「こういうことやるんだ」という重みを感じたんです。僕はそういう創作をリスペクトしているし、これを21歳で書かれたと知ってちょっとびっくりしました。
南 私も最初に原作小説を読ませていただいたときは、独特のものすごい勢いを感じました。「あ、これは止めちゃいけない」と思って、私も一晩で一気に読みましたね。もともと本を読むことは好きで、あまり休憩をはさんだりせずに一気に読んでしまうタイプではあるんですが、なかでもこの作品はそうでした。主人公の朴秀美が持っている行き場のない怒りとか、不満とか、そういう感情はもちろん私にもありますし、10代の頃ってそれがより明確に、強くあったなと思い出しました。同時に、私はこれをお芝居でどうやって表現していこうと、すごく楽しみにもなりましたね。
波木 ありがとうございます。僕も映画を拝見したんですが、自分が原作を書いていることを抜きにしてもめちゃめちゃ面白かったです。本当にいい映画だなっていうのが最初に思ったことでした。映像化する上で、小説に書いたことを深く理解していただいてるなと。しかも小説の内容をそのままなぞるのではなく、映画にするんだったらこう表現するというさらに一歩上の解釈があって、どのシーンも新鮮に楽しめましたね。例えばポスタービジュアルにもあるキャストの方の緑色のつなぎ。これも小説にはなかったアイデアですが、すごくかっこいいですよね。ポップさと、若者ゆえの感情の生々しさが両立していて素晴らしいです。
児山 まずは安心しました(笑)。
波木 本当に素晴らしかったです。児山監督と南さんは、小説を映画の原作として読まれるときに何を考えていらっしゃるんでしょうか。
児山 僕は割と構造から考えるタイプなので、映画全体のどの部分に何が来るかを考えます。例えば今回で言うと、朴のモノローグで物語が推進されていって、最後に美流紅のセリフで終わるようにしよう、という構造をまず考えながら読みました。小説の表現と映像の表現って根本的に違うと僕は思っていて、さっき波木さんがおっしゃったみたいに小説の筋をなぞるだけでは映像作品としては面白味にかけてしまうかなと。だから原作を映像に移行させる上で何か必要だということを考えながら読んでいました。一方で、僕は原作にあるセリフがめっちゃ好きで、ああいうポップでパンチのある言葉を極力活かしたいとも考えて読んでいました。
波木 原作を映画に移行させる何かって、例えばどんなものだったのでしょうか?
児山 一例ですが、原作では、古今東西の小説、映画、漫画、音楽など様々な作品からサンプリング、抽出がされた文章が出てきます。ならば映画では彼女たちの世界がビジュアルになるわけだから、視覚的なサンプリングができるんじゃないかと考えながらやっていました。タイトルにもなっている「オール・グリーンズ」は、「システムオールグリーン」というSF作品にも頻出の軍事用語だとか、××の隠語だとか、いろいろなことを当てはめられるんですが、もっと「あ、今、私らグリーンだったわ」みたいな単純な意味でもいいなと思ったんです。ビースティ・ボーイズがMTVのミュージックアワードに登壇したときに緑のつなぎを着ていたのが頭に残って、その時のビジュアルがかっこいいなと思っていたんですよね。
南 私はとにかくこの原作のキレの良さを大事にしようと思っていました。他の2人、美流紅と岩隈がずっとキレているので、私はそこについていくことがほとんどではありましたけどね(笑)。この“常にむかついてる感じ”を原作からは感じていて、お芝居にもそれを残したいと考えていた気がします。波木さんは映画をご覧になって、小説と映画の違いを意識されたりしましたか?
波木 小説のセリフって話し言葉と全く一緒っていうわけではないんですよね。だから映画でそのまま小説のセリフを使うと変な感じになると思うんです。でもこの映画では、小説のセリフにあった感情を、うまいこと脚本と演技で表現していただけたなと思います。
南 うれしいです。逆に小説にしかできない表現というのもありますよね。
波木 そうですね。やっぱり小説では主人公の内面を直接文章で言語化することができるというのが強みですよね。僕はあまり使いこなせていないかもしれませんが(笑)。そう考えると、原作のある映画を作るというのは、そうでない作品とはまた違った難しさがありそうですよね。
児山 ちょっと浪花節の話をすると、まずは波木さんに面白いと思って欲しいという気持ちで作っていました。それは脚本を書いている時からずっとです。波木さんにとって、『万事快調』がめちゃくちゃ大事な原作であることは明らかで、何よりもその生みの親の波木さんが、いい映画になったな、めっちゃおもろいじゃんって言ってくれるものじゃないとだめだという意識は最初からありました。もちろん、映像化するにあたって「脚色はしたいです」とは事前にご相談していたし、「どうぞ変えてください」っていうお言葉もいただいてたんです。でも、悲壮感がなく、軽やかに、かつ、笑顔で中指を立ててる感じとか、世の中に対するフラストレーションはあるけど、でも不幸な顔だけしているのもなんか違うというか、そういう本質は絶対にぶらしたらいけないなって思いました。それは今の若者自体、または今の若者が求めてるもの、もしくはそのいずれもなんじゃないかと僕は解釈して、映画の中に入れ込みたかった。
南 私も波木さんにがっかりされたくなかったですね。そのために一生懸命でした。私が朴秀美を演じることで説得力のないものになってしまうのが一番嫌だから、頑張りたいなって思っていましたね。私も含め、この映画に関わった皆さんのこの作品を良くしたい、面白いものにしたいっていう思いがすごい強かったから、私も乗りやすかったです。



