スピッツの名曲「楓」を原案にしたオリジナルラブストーリー『楓』。監督を務めたのは『世界の中心で、愛をさけぶ』(04年)などで知られる行定勲。性格も生き方も異なる一卵性双生児の兄弟を、福士蒼汰が一人二役で演じた。

福士蒼汰 撮影=深野未季

脚本を読んで曲への想いが一層深まった

──スピッツの「楓」が映画化されると聞いて、どう思われましたか。

 スピッツさんは“青春”を感じる曲が多く、世代を問わず愛されています。僕も、懐かしいのに古くないところが好きで、「楓」はカラオケでもよく歌っていました。

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 その名曲が映画になると聞いた時は驚きましたが、抽象的な表現が多い「楓」という歌がどう映像化されるのかには、強く興味をもちました。

──脚本を読んで、曲に対する気持ちは変わりましたか?

 本作は、僕が演じた双子の兄弟、須永涼・恵と、そして恵の恋人だった木下亜子(福原遥)のラブストーリーです。脚本を読んだあとにあらためて歌詞を読むと、まるで答え合わせをしているような部分がいくつもありました。たとえば、歌詞にある“かわるがわるのぞいた穴”というフレーズ。カラオケで歌っていた時は、恋人同士が交代で望遠鏡を覗いているイメージだったんですよ。でも、涼と恵が“かわるがわる”自分たちの未来をカメラのファインダー越しに覗いている姿にも重なって見えてきて、曲への想いが一層深まりました。

©2025映画『楓』製作委員会

「演じ分けなくていい」と言われた一人二役

──性格の異なる一卵性双生児を演じるにあたり、何を意識されましたか?

 一人二役というと、いわゆる俳優としての見せ場ですよね(笑)。でも、監督からは「演じ分けなくていい」と言われていたんです。僕自身も形式的に演じ分けるのではなく、涼と恵が歩んできた人生や価値観の違いが、自然と滲み出るようにしたかったんです。不器用でコツコツ努力を重ねる涼と、好奇心旺盛で何でも器用にこなす恵では、きっと交友関係も得意なことも違ったはずです。学生時代、涼は後ろのほうにいる子で、恵はリレー選手に選ばれるようなタイプだったのだろう……、と想像を膨らませていくうちに、歩き方や視線の置き方が自然と変わっていきました。

©2025映画『楓』製作委員会

 監督から「自由に演じていい」と言っていただけたので、双子の子ども時代から現在までの“時間の積み重ね”を身体に落とし込み、その延長線上を生きることだけを大切にしました。

 ただ、声の出し方だけは、涼のときはトーンを下げて低く、恵のときは喉仏の位置を少し上げて、逆にトーンを高めに、という違いを意識して演じています。