これほどまでに、2作の映画に対する日本の観客の温度差が違うのはなぜだったのだろうか。『国宝』が日本の実写映画歴代最高記録に迫り、『宝島』の上映が次々と終わっていく今も、筆者の中では答えが出ない。「この映画は沖縄を舞台にしていますけど、日本の物語です。そして皆さんの物語だと思っています」と、映画公開の4か月も前から妻夫木聡が必死で観客に呼びかけた言葉の意味について考え続けている。

『国宝』監督が妻夫木聡に『宝島』の感想を

「関わる人たち全員がね、もちろん監督筆頭にさ、かなりこう覚悟というか…ちょっとやりたいとか、これ良さそうだからやりましょうではできない、それくらいのスケール感だし、完成にまで持っていく執念、関わった人たちの全員の執念が、なんか焼き付いてるよね」

 2025年9月26日にNHK Eテレで放送された『スイッチインタビュー』EP2の後半で、李相日監督は映画『宝島』の感想を妻夫木聡に語っている。

ADVERTISEMENT

 19日に放送されたEP1から2週連続の対談相手は妻夫木聡。李相日監督の作品には『69 sixty nine』『悪人』『怒り』と3作にわたって重要な役で出演し、監督と俳優としてそれぞれ高い評価を獲得してきた「戦友」ともいえる関係だ。

妻夫木聡 ©時事通信社

「ありがとうございます。まさか見てるとは思わなかった」と妻夫木聡が照れくさそうに言った「まさか」は、この対談の収録時点ではまだ9月19日封切りの『宝島』は公開されておらず、つまり試写か映像資料媒体ですでに見ていたことに驚いていたからなのだろう。

『国宝』と『宝島』の残酷なほどの“格差”

 誰もが知る通り、李相日監督の『国宝』は今、まさに邦画実写の歴代最高記録『踊る大捜査線2』の173億を塗り替えようとする、とてつもないヒットを記録している。にもかかわらず、映画祭や舞台挨拶でのコメントなどの断片的なインタビューをのぞいて、李相日監督がテレビでのロングインタビューに応じた機会は少ない。妻夫木聡の熱望で実現した、と言われるこの『スイッチ』での2週連続の対談は、その貴重なテレビ出演のひとつだった。

 もしかしたらそれは、興行的な苦戦が予想される『宝島』の宣伝アンバサダーとして苦闘を続けていた妻夫木聡、そして『宝島』という映画への支援の意味もあったのかもしれない。

『宝島』公式Xより

『国宝』と『宝島』。2作の日本映画は、まるで鏡に映ったように何もかもが対照的だった。日本の伝統、歌舞伎の中で生きる2人の青年を描く『国宝』が静とするなら、アメリカ占領下の沖縄を舞台に、米軍基地を襲って物資を盗み出す「戦果アギヤー」の青年たちを描く『宝島』は動。そして対照的なのは内容だけではなかった。現時点で160億を超える『国宝』の興行収入に対して、『宝島』の興行収入は公開31日を経過した時点で、6億円強。公開スクリーンは次々と減りつつある。