「みんなに会えないんだったら、これに出る意味が……と思うくらい、どうしてもみんなに会いたいですとは、一番最初にお話をいただいた時にお伝えしたんですけど」

 最終回をむかえる日本テレビドラマ『ちはやふる-めぐり-』X公式アカウントのインタビューでそう語る広瀬すずの動画を見て、ここまでの「再集結」が実現した謎が解けたような気がした。

広瀬すず ©時事通信社

 當間あみ、原菜乃華、齋藤潤、嵐莉菜といった期待の若手俳優を集めた『ちはやふる-めぐり-』のキャストは、その時点で3つの高校が入り乱れる人数の多さも含めて相当に豪華なものである。それに加えて野村周平や広瀬すずという過去の映画版キャストが次々と出演する構成が実現したのは、予算削減がささやかれる今のテレビドラマ界において驚きの事件であった。

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広瀬すずが出演して驚いた“もう1つの理由”

『ちはやふる』の続編はもう困難なのではないか、とファンの間で言われてきたのは、出演者たちが俳優としてあまりに大きく成功しすぎたのも理由のひとつだ。

 矢本悠馬は今や大河ドラマをはじめ日本中の映画ドラマに忙殺される屈指の若手バイプレイヤーである。上白石萌音は新海誠の国民的アニメの声優から、海外公演で高い評価を受ける『千と千尋の神隠し』の舞台主演まで広く演じ、そして歌手としても高い評価を受ける名女優だ。新田真剣佑に至っては全世界に配信されるネットフリックス制作のドラマ『ONE PIECE』であのゾロ役をつとめる国際的活躍ぶりである。

 2016年公開の映画『ちはやふる 上の句』では、彼らがまだ何者でもなかった新人時代だからこそ一つの作品に集めることができたのであり、今もう一度呼び集めたら予算はいったいいくらかかるのか。『ちはやふる 下の句』(2016)、『ちはやふる 結び』(2018)も含めた映画三部作のファンはそうした、嬉しいような切ないような気持ちであのころを思い返してきた。だから今回、それが実現したことに多くのファンが驚いたのだ。

映画3部作のメインキャスト 『ちはやふる-めぐり-』公式Xより

 予算の問題だけではない。何よりも主演である綾瀬千早役の広瀬すずが前述の動画の中で「10代のころにやり切った気持ちがあるからこそ……」と語るように、3部作の最高興行収入を上げた『ちはやふる 結び』が完結編であることを公式に宣言されていた。そしてその言葉通り、2018年に公開された『ちはやふる 結び』以降、広瀬すずは『ちはやふる』シリーズのみならず、スポーツ少女の役をほとんど演じていない。

 インタビューの中で彼女はしばしば「10代のころはスポーツものの出演依頼が多かった」と語るのだが、実際に出演した作品で純粋なスポーツものと呼べる映画は『ちはやふる』以外では2017年の『チア☆ダン〜女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話〜』くらいであり、おそらくそれ以外はオファーの段階で断っていたと考えるのが自然だろう(恋愛映画の中で弓道部の練習をするシーンなどはあったが、スポ根ものやスポーツ映画とはいいがたい)。

『ちはやふる』を見た邦画関係者が、当時の広瀬すずにスポーツ少女のオファーを寄せたのは無理もないことに思える。広瀬すずほど女子スポーツを演じるのに適した若手女優はいなかった。それは彼女がもともと芸能界志望ではなく、地元の女子バスケットチームで大会をめざす生粋のスポーツ少女だったからだ。