──アルコール依存症からの回復を描いた本作は、監督の過去作『システム・クラッシャー』(19年)、『消えない罪』(21年)と同様、社会にうまく適応できない主人公の葛藤を描いた映画ですね。

 たしかにどれも、社会の周縁に生きる人々が自身の内に抱えた悪と戦う話です。自分がなぜそのような人物に惹かれるのかはわかりませんが、きっと人間は誰しも、自分の中の邪悪さと向き合う必要があるのだと思います。

ノラ・フィングシャイト監督

 私は、依存についてではなく、ヒーリング(治癒)に関する映画を作りたかった。エイミー・リプトロットの回想録で私が感銘を受けたのは、彼女がアルコール依存の問題を克服しただけでなく、自分自身と折り合いをつけるのに成功したことです。一度は逃げ出した故郷に戻り、自然とのつながりを取り戻し、人とは違う個性を持った自分を受け入れ自尊心を取り戻す。そういう女性の姿を描きたいと思いました。

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島での生活のリアルな描写

──ロナと家族や友人との関係を描くうえで、どんなリサーチを行ったのでしょうか?

 制作スタッフの中に、友人や家族がアルコール依存症だという人が多くいて、彼らにもたくさん話を聞きました。またロンドンのリハビリ施設に通う人々を演じたのは、みなかつて実際に依存症を患い、それを克服した方々です。パパイ島でロナが出会う雑貨店主のカラムはエイミーの友人で、映画の中で自分の実体験を語ってくれました。

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──島での生活のリアルな描写に驚きました。羊の出産の手伝いも、実際に俳優たちが行ったのでしょうか?

 ええ、他の場面の撮影は夏でしたが、羊の出産時期の3月に合わせてここだけ先に撮影をしました。羊の出産ではときに死産にも立ち会います。農家の娘として、幼い頃から生と死を身近に感じて育ったことがロナという人物を形作った。そのリアリティを見せるためには出産場面の撮影が絶対に必要だと思いましたし、主演兼プロデューサーも務めたシアーシャも全く同意見でした。撮影中は連日早朝から待機し、彼女は7頭の子羊を実際に取り上げました。