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大阪の作家・津村記久子が語る「『探偵!ナイトスクープ』の七並べの回のような小説を書きたい」

テレビっ子作家・津村記久子インタビュー #3

『ドキュメント72時間』は内容が予想できんかった回を残す

―― ある種ドキュメンタリーですよね。

津村 そうですね。それこそ『世界ふれあい街歩き』に出てくる世界のオモシロ素人の日本版みたいな。『世界ふれあい街歩き』は世界を日本的な視点で編集してるからおもしろいんでしょうけど、よくあんなおもしろい素人さん出てくるなって思って。どうやって探してるんでしょうね。

―― ドキュメンタリーもご覧になるんですね。

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津村 『ドキュメント72時間』とか観てますね。録画しては消し、録画しては消しを繰り返してるんですけど。最近残したので覚えてるのが、「カナリア諸島に来た漁師」、「宮崎の路上ピアノ」とか「高田馬場のゲームセンター」。内容が予想できんかった回の方が残しますね。

『探偵!ナイトスクープ』の「七並べ」的な世界を書きたい

―― 関西の人気番組『探偵!ナイトスクープ』はいかがですか。

津村 あんまり観られてないですけど、すごいおもしろかった回は覚えてますね。朝日放送を流してるときに『ナイトスクープ』の番宣観て、すごい気になるやつは観るんです。「70過ぎたお母さんがなぜやたらと朝帰りをするのかを調査してくれ」っていう依頼(「朝帰りする71歳の母」)を気になって観たんですよ。その71歳の女性がそこで何をしてるのかというと、友達とトランプの七並べをしてたんですよね。

―― 七並べ(笑)。

津村 友達と集まって(笑)。めっちゃ楽しそうに七並べ。夜を徹してずっと七並べをしてる。いろいろと語り合うとかは全くなく、ただただ近所の友達と七並べをしている。

―― ストイックに(笑)。

津村 そう、めっちゃ楽しかったですよ。その回はもう大好きなので録画しておいてますね。もう4年も前の回ですけど。小説になりそうですよね。理由を知りたい。そこでなんか「孫が……」なんて話を一切しないのが潔いですね。何回も観返しました。なんか幸せじゃないですか。それこそ七並べの様子を12時間ぐらい録画したのをずっと流してたいです(笑)。最近で一番好きなのはその回かなあ。

―― おもしろいですねえ。インタビューの最初に「テレビっ子じゃない」とおっしゃってましたけど。

津村 めっちゃテレビっ子でしたね(笑)。

―― 最後に、なんか唐突に普通のインタビューみたいになっちゃうんですけど(笑)、今後書きたいテーマはありますか。

津村 急に(笑)。いやいや、ホントそれこそさっきの「七並べ」的な世界が書きたいですね。自分がすごく退屈な住宅街を通って仕事に行くのが苦痛で仕方ないときがあって。だから次はいっそその住宅街をモデルにした話を書こうと思ってます。その住宅街で夜中にみんなが起きてて何考えてるかみたいな。W杯でもそうだけど、みんなが夜中起きてワーッと言ってるじゃないですか、同時に。W杯が終わって寂しいので、まあ規模は小さくなりますけど、そういう世界を一回書きたいなと思ってます。

つむら・きくこ/1978年大阪府生まれ。2008年『ミュージック・ブレス・ユー!!』で野間文芸新人賞、09年「ポトスライムの舟」で芥川賞、11年『ワーカーズ・ダイジェスト』で織田作之助賞、13年「給水塔と亀」で川端康成文学賞、16年『この世にたやすい仕事はない』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、17年『浮遊霊ブラジル』で紫式部文学賞を受賞。最新作にサッカー2部リーグのサポーターたちの群像を描いた『ディス・イズ・ザ・デイ』。

写真=深野未季/文藝春秋

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