悪巧みを潜ませた傑作『ニュー・アトランティス』

 しかしベーコンとキリスト教との一致点はそこまでだ。『ニュー・アトランティス』で彼は全く新しい教義を説いた。1世紀前のトマス・モアの『ユートピア』と同様に『ニュー・アトランティス』は神秘的な未知の島を描いている。そこでは物事は見た目とは異なる。ベーコンはプロットの曖昧さや謎めいた言葉遣いに加えて、どこまで信じていいのか分からない語り手を用いて、読者を煙に巻く。まるで天才的な犯罪者のような巧妙さで『ニュー・アトランティス』を書いている。捕まることを恐れながら自らの犯行を記録しようと決意しているかのようだ。このベーコンの悪巧みを潜ませた傑作を解読するには、神学を用いて探偵のようにして臨まねばならない。

ティール氏は「ワンピース」の最終回に注目している

『ニュー・アトランティス』の物語は大自然に翻弄される場面から始まる。ヨーロッパ人キリスト教徒の乗り組んだ船団がペルーから西へ5カ月航海した後、風向きのままにベンサレム島に漂着する。ヘブライ語で「平和の子」あるいは「安全の子」を意味するベンサレムこそが新たな「アトランティス」である。プラトンが描いた旧アトランティス同様、ベンサレムは豊かな島国だ。旧アトランティスは富によって腐敗し、「ヨーロッパ全体、さらにアジアまでも攻撃する」計画を立てるほど貪欲になった(プラトン『ティマイオス』)。ゼウスは洪水でその文明を滅ぼし、アトランティス人の強欲を罰した。対照的に、ベンサレムは豊かでありながら徳を備えているように見える。ベンサレム人は船乗りのうちの病人を薬で治療し、島での居住を勧める。ベンサレムの技術が進んでいることを最初に思わせたのはこの薬であった。その後に登場するさまざまな発明には驚くべきものがあり、ゼウスでさえこの新しいアトランティスを滅ぼすことができるだろうかと疑問に思わせるほどだった。技術によりベンサレムは自然災害を乗り切り、それまで当然と思われてきた帝国興亡の循環を逃れている。このアトランティスは新しいだけでなく、一段と格が上がった存在なのだ。

初出:Peter Thiel & Sam Wolfe, Voyages to the End of World, in First Things, October 1, 2025.

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※本記事の全文(約15000字)は、「文藝春秋」2月号と、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(ピーター・ティール×サム・ウルフ「ピーター・ティールのワンピース論」)。

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出典元

文藝春秋

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