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一人暮らしでも在宅死はできる

長尾 死の受容と言うと、『死の瞬間』(1969年発表)を書いた米国の精神科医、キューブラー・ロスの五段階モデル(終末期の患者は、1.否認と孤立、2.怒り、3.取り引き、4.抑うつ、5.受容、と段階を踏んで死を受け入れるという考え方)が有名ですが、実は本人よりも「家族の死の受容」が一番大変なんです。本人は覚悟が出来ていて「もういい」と思っているのに、家族がなかなか受け入れられない。実は日本の終末期医療の問題は、8割ぐらいが家族の問題なんです。だから今、家族に向けた本ばっかり書いています。この本(『痛い在宅医』)も、本人より家族に読んでほしいと思っています。とくに遠くに住んでいる息子さんや娘さんたちに。

鳥集 家族の問題は、よく聞きますよね。せっかく在宅で死を受け入れる準備ができているのに、「なんで病院に連れて行かないの」って、離れて暮らしてる娘や息子がやってきて怒り出すという。実は、在宅医の先生方にうかがうと、一人暮らしの患者さんを看取るほうがかえって楽なんだと言います。家族のいる人はいろんなことを言う人がいるので、意見がまとまらず困ることが多いと。

長尾 そうなんです。病院の方々も「一人暮らしの方は、在宅は無理です」って言うんだけど、私たちからしたら「なんでできないの?」って思います。だって、世の中一人暮らしの高齢者だらけじゃないですか。65歳以上の人の独居率は3割近くにもなっています。長生きすればするほど、いつか一人暮らしになって、しかも認知症になるんです。それが普通のことなので、町を挙げて包み込み、柔らかく見守る。建物でなく町が病院になる。そんな社会になるべきです。でも、医者が一番頭が固い。とくに病院でわかっていない人が多いんです。病院の医者が「在宅の看取りなんてインチキだ」と思っている限り、なかなか世の中の空気は変わらないですね。

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それでも家で死ぬのは幸せなこと

鳥集 今回のテーマは、国が在宅医療に本腰を入れて10年以上たち、そろそろ美談ばかりでなく、ダメな現実も見るべきだという話だったわけですが、インタビューの最後ぐらいは希望を持てるような終わり方にしたいと思います。いろいろ問題はあっても、やっぱり在宅で看取るほうがいいんですよね。

長尾 はい、在宅死は非常にご家族の満足度が高く、「死んだのにこんなにありがたがられるのか」というぐらいご家族から感謝されます。別に自慢しているわけじゃないけど、家で死んで後悔する家族って僕らは知らないんです。人類はみな「遺族」ですから、僕らはお看取りした家族は遺族とは言わず、家族と言うんですが──みんなで思い出を語り合う家族会をすると、たくさんの方が来られて、みんな「よかった」って口々に言いますよ。家で看取って、悪いことなんて一つもないからです。

鳥集 逆に病院ではたくさんの管をつけられたあげく、心停止した瞬間に蘇生措置をするために、「ちょっと病室から出てください」と言われて、家族が患者さんの死の瞬間に立ち合えないと言った話もよく聞きました。そのような無理な延命治療や蘇生措置は減っただろうとは思いますが……。

長尾クリニックのスタッフたち