僕は、「これこそ日本に導入すべき技術だ」と直感した。最近、外科の仲間は皆、ロボットによる肝切除の導入に躍起になっている。しかしロボット手術は、従来の内視鏡手術を「さらに何倍も低侵襲にする」方法ではない。これまでは開腹手術でないと難しかった手技を、低侵襲手術の枠内で行いやすくするだけだ。患者は無傷でないし、痛みもゼロではない。順調でも術後数日間の入院が必要だ。

 それに対し、ヒストトリプシーは傷も痛みもゼロだ。この意味で、従来の低侵襲手術と全く次元が異なる「無侵襲」手術だと定義できるだろう。呼吸による位置のズレを防止するために全身麻酔は必要だが、担当医はひとりで十分だし、患者も治療翌日には退院できる。高齢者には最適だし、若い患者の社会復帰にも追い風だ。日本の医療情勢にマッチしているではないか!

抗腫瘍免疫を活性化する効果が想定される

「無侵襲」に加えて、僕がヒストトリプシーに期待する理由がもうひとつある。

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 手術という治療手段の揺るがざるコンセプトは「がんを残さず取り除く」ことであり、それが外科医の矜持でもある。しかし、それでもがんは再発することがある。なぜか? がんにより抑制された免疫システムが、ミクロのレベルで遺残したがん細胞を「異物」と認識できないからである。

 この抑制を解除し、免疫力を再賦活できるのが「免疫チェックポイント阻害薬」である。遠隔転移をも縮小させる驚くべき治療成績を挙げているが、現状ではこの効果は一部の患者に限定されている。「がんを異物として認識するための材料」が免疫細胞に大量に供給され、もっと機能が活性化されれば、がんを体内から完全に排除できるかもしれない。

©AFLO

 患者自身の免疫を発動させるこの戦略において、実は手術には負の側面がある。患者の体ががんを認識するための材料(=がん細胞自体)を取り除いて、免疫系から奪ってしまうからだ。

 ラジオ波やマイクロ波による局所治療も、がんのタンパク質を熱で凝固・変性させてしまう。放射線治療では、死滅したがん細胞から「異物の成分」が少し放出されるようだが、照射範囲以外の病変が免疫の力で縮小する効果(アブスコパル効果)は十分に認められていない。