手術支援ロボット「ダビンチ(da Vinci)」。数億円もする巨大な医療機器なだけに「操作には熟練の職人芸が必要なのだろう」と想像するのも無理はない。
しかし、現場の外科医の実感は少し違う。「若者なら1時間も練習すれば基本操作を直感でマスターできる」――。親指姫のように患者の体内に入り込み、ミカンの皮を剥き、折り鶴さえ折れてしまうという操作性とは一体どのようなものなのか。現在、大阪公立大学で教授を務める石沢武彰氏が著した『変革する手術 「神の手」から「無侵襲」へ』(角川新書)の一部を抜粋して紹介する。
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手術支援ロボット「ダビンチ(da Vinci)」の登場
2018年、僕は東京大学に呼び戻された。長期のアメリカ出張でがん研(有明がん研病院)に迷惑をかけた罰、ではなかったと信じたい。研究環境が整った大学で、新しいことに取り組むタイミングだったのだろう。
新教授の長谷川先生は、僕を「ウドの大木」から、自分で論文を書いて手術もする「アカデミック・サージャン」に育ててくれた恩師だ。教授からいただいたミッションは、パリで学び有明で実践した内視鏡手術を、いよいよ大学病院に「安全」に取り入れること。
ここは、かつて「自分が内視鏡手術をすることは一生ないだろう」と確信していた、いわば開腹手術の殿堂だ。複雑な術式を内視鏡で完全に再現するには難しい課題も多く、上手く行くオペばかりではなかった。しかし、今回は低侵襲手術を志向する若い仲間が全力でサポートしてくれた。
そう、もう僕はひとりではなかった。
新しいチャレンジ、それはロボット手術の導入だ。ダビンチ(da Vinci)――外科の世界では画家レオナルドの数倍有名になったが、これが手術用ロボットの名前だ。機械の彼はイタリア人ではなく、アメリカ製である。
「ロボット手術」と聞くと、「アンドロイドが人間に代わって手術をする」と思うかもしれないが、幸か不幸か、まだそこまでテクノロジーは進歩していない。執刀医がオペ室に置かれた「指令室」に座り、両目でレンズを覗きながら、指サック状のコントローラーを操作する。すると、手術台に寝ている患者と連結した4本のアームが、執刀医の指の動きを体内で忠実に再現してくれるのだ。
手元の大きな動きが、体内で精細な操作に変換される。手ブレもない。画面は3Dなので、まるで自分が親指姫になり、患者の体内に入って手術を行っているような感覚で手術ができる。もともとは、医師がいない戦地の手術をアメリカから遠隔で行うために開発された、という話だ。真偽はともかく、一見「ムリ」なアイディアを医療の現場で実現させてしまう、アメリカという国のフロンティアスピリットと資金力には感服する。
