「右手が2本あるエレクトーンの奏者」のイメージ
ダビンチ手術では、左手で1本、右手で2本(またはその逆)の道具を扱えるのが特長だ。右手のうちの1本で、柔道選手が奥襟を摑むように「術野展開に一番良い場所」を持って引っ張りあげたら、左足で切り替え用スイッチをキック。すると、右手で操作できるアームが別の1本に移るので、そこと左手の器具を使って、あたかも開腹手術で両手を使うようにオペを進めることができる。
僕が内視鏡手術を学んだパリ留学で最初の手術、L先生が求めた「余計な動きをするな。お前は黙って邪魔な臓器を押さえていろ」という役割を、奥襟を摑んでいる右手のアームが忠実に務めてくれる。そのおかげで、術野がブレず常に安定しているというメリットがある。
右足は電気メスのオン・オフの操作に用い、左足でカメラ操作用のペダルを踏む。「右手が2本あるエレクトーンの奏者」のイメージ。このように書くと超絶難しいように思うかもしれないが、実はそんなことは全くない。長年の試行錯誤と無数の特許で装置が洗練されているので、特にゲーム世代の若者なら、1時間も練習すれば基本操作を直感でマスターできるだろう。ダビンチでミカンの皮を剝く、鶴を折る、という練習課題もクリアできるかもしれない。この会社を「インテュイティブサージカル(直感的手術)」と命名したのも納得だ。
アメリカ出張中のピッツバーグでの経験が生きていることを感じる。切除した膵臓と脾臓をまとめて透明な袋に入れたら、4本のアームを患者から取り外し、ダビンチ本体を撤退させる。忠実によくがんばってくれた。ありがとう!
そしてお臍の穴から袋をポン! と体外に取り出せば、無事に切除完了だ。時間は開腹手術の1.5倍くらいかかった。しかし、出血は少なく、初回としては合格点と言えるだろう。ずっとレンズを覗いていたせいで首が痛く、指もつりそうだが、それもまもなく満足感に変わった。