2023年秋、ボストン。全米外科学会の会場での光景はあまりに衝撃的だった。水槽の中に置かれた肉片が、あれよあれよという間に「ドロドロ」に溶けていく。メスも針も触れていない。熱さえ加えていない。ただ、装置のスイッチを入れただけなのに――。

「僕は一体、どんなマジックを見ているのだろう?」

 そう当時を振り返るのは大阪公立大学教授の石沢武彰氏。彼が目撃した革新的治療とはいったいどんなものなのか。同氏の著書『変革する手術 「神の手」から「無侵襲」へ』(角川新書)の一部を抜粋して紹介する。

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「無侵襲」手術――メスも針も使わず、がんをドロドロに

 2023年、秋のボストン。仲間たちと開拓した蛍光ガイド手術(蛍光物質を使い、臓器やがんを可視化する)は、米国外科学会の教育プログラムで扱われるほど一般的な技術になっていた。講師の役目を終え、夜に食べる大きなロブスターを楽しみに企業のブースを散歩していた僕は、ふと、見たこともない装置が展示されているのに気付いた。

 よく検査で使う超音波のプローブにパラボラアンテナのようなカバーが付いていて、先端が水槽に浸かっている。水の中には肝臓に見立てた透明のゼリーが置かれていて、がんを模した肉片がゼリーの内部に埋めこまれている。モニターに超音波の画面を映し、肉片の周りにピンポン玉大の治療領域をセットする。スイッチ・オン。すると……あれよあれよという間に、肉片がドロドロに溶けていくではないか。ピンポン玉以外のゼリー部分には全く損傷がない。僕は一体、どんなマジックを見ているのだろう?

©AFLO

 興奮して質問すると、これこそ、体外から肝がんを破砕・液状化させる革新的治療「ヒストトリプシー(Histotripsy)」だと担当者が胸を張る。もともとミシガン大学で開発された技術で、その後潤沢な資金を得て開発が進み、ついに先日FDA(アメリカ食品医薬品局)に認可されたのだという(現時点で日本の薬事は未承認である)。

 肝がんの根治治療には、手術による切除以外にも、体外から腫瘍に針を刺してラジオ波あるいはマイクロ波で焼灼する局所療法が普及している。一方このヒストトリプシーでは、メスはおろか針も使わない。体外から超高周波の超音波パルスを数ミリ大の1点に集中させ、この範囲を自動制御でピンポン玉の形に積み上げることで、がん組織を「ノータッチですり潰す」のだ。歯医者が歯垢を除去する、あのウィーンと鳴る嫌な道具、その先端の反応を、何センチも離れた任意の場所で発生させることができる魔法の装置、と言えば伝わるだろうか。