理想とする「光る手術」を求めて

 膵臓を皮切りに、肝切除にもロボット手術を導入した。ダビンチには、「Firefly」という画像モードが搭載されている。ファイアーフライ、日本語に直訳するとホタル。そう、がんをピカピカ光らせてくれるICG(インドシアニングリーン)の蛍光を表示できるのである。

 例えば、肝臓を割っている途中で、ファイアーフライをオン。すると、肝臓がんの場所が緑色に光り、切除の方向が合っているか(がんに切り込まないか)瞬時に確認できる。遠隔操作で行うロボット手術には触覚がないので、正確な肝切除にこの機能は欠かせない。大学院時代から育ててきたわが子「蛍光ガイド手術」とアメリカから来たロボットとのマリアージュ。妙な感慨に浸っていた。

 そんなある日、医局の郵便受けに1通の手紙が届いた。肝胆膵外科の業績で名高い「大阪市立大学」が、「大阪府立大学」と合併し、日本最大級の規模で「大阪公立大学(Osaka Metropolitan University OMU)」が誕生するらしい。その新大学の、肝胆膵外科の教授に立候補しませんか? というお誘いだった。

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 僕は、もしこのようなありがたい提案があったら、それが日本のどこであってもチャレンジするつもりでいた。しかし、親戚も友人も全くいない大阪はかなり想定外。関西弁にもびびってしまう。ただひとつ、僕は根っからの阪神タイガースファンだ。掛布やバースのように受け入れてもらえるに違いない、活躍しさえすれば。

 教授選のプレゼンにはタイトルを付けるナラワシのようだ。僕は、「光が導く手術」に決めた。鮮やかな開腹術を行う「神の手」幕内先生のオーラに惹かれて千葉から東大に入局し、ガイエ先生の輝かしい内視鏡テクニックを見にパリに行った。そこで学んだ手術を実践する時、蛍光イメージングが自分を正しい判断に導いてくれた。つまり、僕が歩んできた20年間の出来事をギュっと20分に要約してプレゼンした。

 新年度からの採用のはずが、もう2月だ。大阪には縁がなかったな、と半ば諦めていた頃、ようやく1通のメールが届いた。薄目を開けながら開封すると、なんと採用通知だった。

 まず電話したのは大阪の不動産屋だった。ギリギリまで押さえておいてもらっていたワンルームマンションを契約した。次に妻のP子。連絡の順番が違うことに気づいたが、いつも以上のポジティブさで単身赴任にゴーサインを出してくれた。お世話になった方々にお礼を述べ、最後にがん研を訪問した。挨拶を終え、弾む足取りで病院を出る僕に、見送りに出てくれたヨースケが背中から声をかける。

「石ちゃん、『これから』だね!」

 そうだ。僕は「これにて一件落着!」の気分に浸っていたが、それは違う。昔、格安居酒屋で彼と語り合った「肝胆膵外科こうあるべし」という理想、これを実現するために大阪に行くのだ。