すべてを揃えて最善の一手を打つ
大阪では、手術と研究の情熱に満ちた猛者たちが待ち構えていた。
旧第一外科のグループは、肝臓に血を送る動脈に嚙みつく膵がんを、手術前に血管をふさぎ血流を改変しておくことで切除可能にするテクニックを確立していた。旧第二外科は、切除する側の肝臓に血を送る門脈を詰めておいて、残存側の肝臓を大きく肥大させる「門脈塞栓術」を世界で初めて報告した歴史を持つ。職業性胆管がんという特殊な病態を発見し、手術と免疫チェックポイント阻害薬で治癒させた実績でも知られる。
この両者が統合して生まれたOMU肝胆膵外科は最強の布陣に思えた。手術室ではダビンチも待ち構えている。患者のがんを動物モデルで再現する実験設備もある。理想の実現に必要な材料がほぼ揃っていた。
僕が掲げたモットーは、「すべての治療手段を揃えた上で、患者に最善の一手を提供する」ことだ。
例えば、内視鏡やロボットを扱う技術力が高ければ、「この術式は開腹手術はもちろん、低侵襲手術でも安全に実施できると思います」と提案できる幅が広くなる。逆に、巨大な腫瘍や、進行したがんを切除する開腹手術のノウハウが失われてしまえば、本当は治療の望みがあるにもかかわらず、「この病状はうちでは手術の対象ではないですね(他の施設では切除できるかもしれないが)」と伝えざるを得ない。
何が最善か、について正解はないのだが、「手術はできるけど選択しない」のと、「できない」ことは意味が異なる。ガイエ先生のようにひとりでぜんぶの手術法を提供できる外科医もいるし、僕もそのような万能型の外科医に憧れてきた。しかしそれが無理なら、メンバーの得意分野を磨いて、「ぜんぶできるチーム」を結成すれば良いのだ。
「すべてを揃える」中身は手術だけではない。薬物治療や放射線・血管内治療、経皮的な焼灼療法(ラジオ波やマイクロ波)も含まれるので、内科や放射線科と治療のネットワークを構築することも不可欠だ。毎週、異なる分野の専門家が集まるキャンサーボード(多職種カンファ)を開き、治療法に迷う症例を取り上げて複数の視点から検討している。これは近年どの病院でも導入されている取り組みだが、何より、必要な時に「電話1本」で相談できる医師の人間関係が大切だと感じる。
