ロボットを使いこなす
ロボット手術は、骨盤の奥深い部位を操作する前立腺の手術で効果が実証され、ちょうど2018年に胃や大腸でも健康保険の適用となった。しかし、手技が複雑でトラブルも多い膵臓や肝臓の手術に当てはめるには、安全を確保するための特別な準備が必要だ。
まずは、ダビンチを扱う「術者」としての認定を受けなくてはいけない。何億円もするこの装置は「そのへん」にゴロゴロしていないので、国内外に数ヶ所しかないトレーニングセンターを何度も訪問し、基本的な操作法を練習する。全身麻酔がかかったブタの手術に合格すれば、認定証がもらえる。
このテストの講師は外科医ではなく、オペナースなどの医療職から引き抜かれたスタッフが担当するのだが、毎日のようにダビンチを扱う彼らの「お手本」は見事である。つい、「いっそのこと、あなたが患者さんの手術した方が上手くいくんじゃないですか? 僕は監督しているので」と弱音を吐いてしまいそうだ。
オペナースと一緒に、ロボット手術の先駆的な施設を見学することも必要だ。大学病院では、手術の手順書はもちろん、入院から退院までのフローチャートや、監督役に誰を招請するか、医療費をどうやって支払うかという計画を作成し、関連部署の承認を受ける。
助手を務める同僚や麻酔科医、ナース、臨床工学技士とは、手術の合同シミュレーションを繰り返した。特に、ロボット手術中に出血などの緊急事態が発生した時に、どうやって重い機械を押しのけ、いかに素早く開腹手術の道具を出すか、あらかじめ想定しておくことは極めて大切な準備である。
いよいよ、大学病院として1例目のロボット支援膵切除の日を迎えた。トレーニング通りにダビンチを患者に近づけ、そこから延びる4本のアームをトロッカーに接続する(ドッキング)。そのうちのひとつの穴からゆっくりとスコープを挿入し、他の穴から専用の道具をセット。ここまでが「お膳立て」だ。数分で完了するのが目標だが、慣れないうちはこの作業だけで10分以上の時間を要してしまう。
僕は術野から離れ、手袋を外し、術衣も脱いでしまう。そして「指令室」に座りレンズを覗き込むと、いつもは遠くから見ている内臓や血管が、「まさに目の前」に3Dで飛び出している。