“やさしさの三部作”に込めた思い

――瀬尾さんの作品は、家族だけでなく、家族以外の結びつきも丁寧に書かれている印象があります。人と人とのつながりを書くのがお好きなのでしょうか。

瀬尾 そうですね。人がとても好きです。人にはすごく興味があるし、人が笑っているとうれしくなる。逆に、自分自身にはあまり興味がないかもしれません。

 人と人とのつながりを書いていると、自分が意図していなくても、登場人物たちが違うつながりを見せてくれることがあるんです。「この人、裏でこんな動きをしていたんだ」って、書きながら知ることがある。だからすごく楽しいですね。

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『私たちの世代は』の展開も、書きながら決めていきました。作中に出てくる男の子と女の子がいい感じの関係になったときも、「くっつけばいいのに」って、応援しながら書いていました。

©文藝春秋

――『私たちの世代は』の文庫化にあたって、『そして、バトンは渡された』『夜明けのすべて』と合わせて“やさしさの三部作”という帯を作らせていただきました。『そして、バトンは渡された』は2019年に本屋大賞を受賞され、瀬尾さんにとっても大きな作品だったかと思います。今、振り返ってみていかがですか。

瀬尾 本屋大賞をいただいたことはすごく大きかったです。それまでは、周りの人に小説を書いているって言っていなかったんですよね。書店員さんに認めてもらえて、「作家って自分で言っていいんだな」と自信を与えてくれた作品です。

『そして、バトンは渡された』は血の繋がらない親子の話なのですが、主人公の優子ちゃんは、全員から愛情を注がれて幸せに育ちます。

 愛情を注げるあてがあることって、私にとってはすごく精神を安定させてくれることなんですよね。自分の子であろうと、学校の生徒であろうと、自分の気持ちを注げるものがあることは、本当に幸せなこと。それ以上のものはないなと、書いていて改めて気づかされました。

“やさしさの三部作” ©文藝春秋

――『夜明けのすべて』はいかがでしょうか。PMSに悩む藤沢さんとパニック障害を抱える山添君が、お互い助け合いながら日々を過ごしていくお話です。名前のつけられない関係性がとても素敵でした。

瀬尾 この作品は、私自身がパニック障害になった経験がもとになっています。自分のことはなかなか救いにくいけれど、他人のことなら「こうしてあげたら、ちょっとは楽になるんじゃないかな」って気づけることがある。病気を治せるわけではないし、的外れなこともあるかもしれないけど、救える手段があるのではないかと思いながら書きました。

「男女の友情は成り立つか」なんて言う人がいますけど、私は普通に成り立つと思うんですよね。友達でも恋人でもないけれど、目の前にいて、なんとなく気になって「こうしてあげたいな」って思う人がいる。職場であったり、何かで会ったりする人のさりげない一言に救われることって、たくさんあるんじゃないかと思います。

『そして、バトンは渡された』『夜明けのすべて』『私たちの世代は』はつながっているわけではないですが、どの話の中にも“やさしさ”が必ず含まれていると思います。

 親が子を思う気持ちであったり、そばにいる他人を思う気持ちであったり、しんどい時代を一緒に生きてきたみんなの気持ちであったり。違った形の“やさしさ”が描かれているので、新しい帯はとても素敵だなと思いました。

©文藝春秋

――最後に、『私たちの世代は』をこれから読む方に向けて、メッセージをお願いします。

瀬尾 この本を出したときに、タイトルについて昔の教え子から連絡があって「コロナ禍って、初めて全員が同じ世代になれた不思議な期間だった」と言っていたのが印象に残っています。例えば「ゆとり世代」は一部の世代だけがそう呼ばれてきたけれど、コロナ禍は全員が困っていましたよね。だから、皆さんが「ああ、そうだったな」と思い当たるような部分が、『私たちの世代は』の中には絶対にあると思います。

 コロナ禍じゃなくても、しんどい時ってたくさんありますよね。だけど、正しい道じゃなくても、ちょっとでも前に進んできたからこそ、何かにたどり着ける。そんなふうに読んでいただけたら嬉しいです。

私たちの世代は (文春文庫)

瀬尾 まいこ

文藝春秋

2026年2月4日 発売

夜明けのすべて (文春文庫 せ 8-5)

瀬尾 まいこ

文藝春秋

2023年9月5日 発売

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