『世界の終わりへの旅』(「ワンピース論」)で示されている三つの道

 人類の存亡を科学技術の発展に賭け、それを抑圧するものを聖書に(なら)って「反キリスト」と呼ぶティールは、一言で言えばイノベーション至上主義者だ。最近流行の思想的立場で言えば「加速主義者」やテクノ・オプティミスト(技術楽観主義者)と呼んでも良い。ティールの議論のオリジナリティは、この極めてテックらしい発想を、キリスト教の道徳的世界観と接合しているところにある。

 ティールの思想の布置(ふち)においては、一方に先述の「平和と安全の名のもとに」管理社会を築く支配者がいて、これが「反キリスト」とみなされる。そして他方に、科学技術の暴走などによる破滅があり、これは聖書の世界観で言うところの「ハルマゲドン(最終戦争)」である。そのいずれも回避されなくてはならない。その回避のためにはキリスト教信仰が必要だというのが、ティールの終末論の中心的主張になる。

黙示録を著すパトモス島のヨハネ by ヒエロニムス・ボス, Public domain, via Wikimedia Commons 「ハルマゲドン」は「ヨハネの福音書」に出てくる言葉

第一の道:技術革新の停滞をもたらす管理社会=反キリスト

第二の道:破滅、暴力=ハルマゲドン

第三の道:科学技術の発展と「神の知」の探究の両立=キリスト教

 この本筋が理解できれば、牽強付会(けんきょうふかい)な「世界の終わりへの旅」はだいぶ理解しやすくなる。

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「科学技術と人類の命運を語る」四つの作品とは?

「世界の終わりへの旅」では、科学技術とキリスト教と人類の命運について語っているとティールがみなした四つのフィクションが取り上げられている。

 17世紀のイギリス人哲学者、フランシス・ベーコンが書いた小説『ニュー・アトランティス』、18世紀のアングロ・アイルランド人の作家、ジョナサン・スウィフトの『ガリヴァー旅行記』、1980年代のアラン・ムーアによるアメコミ、『ウォッチメン』、そして1998年から現在も連載が続いている尾田栄一郎による漫画『ワンピース』だ。

ジョナサン・スウィフト『ガリバー旅行記』の初版(1726年)
英語版も海外で読まれる尾田栄一郎『ワンピース』 ©Unsplash

 それぞれの作品に関するティールの評価をまとめると以下のようになる。

ベーコン:第一の道をユートピアとして描いた「反キリスト」

スウィフト:無神論が第一、第二の道にしかならないことを風刺

ムーア:核兵器誕生以降、第二の道を避けるには、現実的には第一の道しかないことを示唆

尾田栄一郎:第一、第二の道を退け、第三の道を示すことが期待される