入り口で問題を起こした東京医科大学
厚生労働省でも医師需給分科会で有識者が議論を繰り返し、医師の数を増やすべきかどうなのか、ずっとやっておりました。また、前任厚生労働大臣の塩崎恭久さんの時代には、別途「働き方ビジョン検討会」が立ち上がって、報告書までしっかり仕上がっている分野です。ここでは「女性医師は男性医師に比べて戦力になっていないことは自明として、男性医師の何割引で女性医師の実労働を計算するのか」という身も蓋もない話をしています。男性主導の社会だからとかそういうことではなく、普通に結婚後に出産、育児をする女性を男性と同等の労働力としてみることがそもそもできないという議論は事実であるとして行われているわけです。
一方で、女性医師にも活躍できる職場環境を医療業界も作るべき、という議論ももっともです。
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-isei_318654.html
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000160954.html
突き詰めれば、毎年100万人の新生児を切っている日本の人口の減少局面において、医学部を受験して突破するような優秀な若い日本人が毎年1万人近く医師になっているということは、もう100人に1人は医師になってしまう時代になります。「果たしてそんなに医師は必要か?」という意見と「医療への需要は増える一方なのだから、医師はもっと増やすべき」という意見とで有識者が右と左に分かれて大論争になっているのが医療行政の根幹だと言えます。
ところが、東京医大の件では、医学部入学で受験生を恣意的に選別していたのか、という入り口のところで問題を起こしてしまい、これからは公平に医学部に入れましょうという議論になるのかもしれません。国家から補助金を貰っているので公平であるべき、という声が、どんどん大きくなっていくことでしょう。
日本人のために日本の大学があるのだ的な問題
こうなると「建前としての公平」と「現実に起きている問題」とが乖離していくことになるわけですが、実際に、医療現場できっちりと労働時間を限定してブラック度を減らそうという話が義務付けられたりすると、崩壊する医療現場が続出するんだろうなあということは、医療にちょっとでも関わってきた人たちであれば感じ取れることだと思うんですよね。
むしろ、医師については尊敬される素晴らしい人たちであるという社会的なコンセンサスを強化したうえで、より合理的に働いていただいて医療崩壊が起きないよう留意するべき状況ではないかなあと思います。一方で、ポリコレ的な建前や綺麗事も良く吟味しつつ、私立大学はそもそも入学者を選抜するものなのだという地に足の着いた議論も必要でしょうし、こんなクソみたいな文科省のネタが日本の医療崩壊のトリガーとならないよう、よく考えていくべきなんじゃないかと思ったりもします。
日本がまだ救われているのは、アメリカでもハーバード大学でいま問題になっているような人種差別で優秀過ぎるアジア人が入学できず排除されているようなネタとはいまのところ無縁だということです。日本人のために日本の大学があるのだ、という国粋主義的な状況から、より門戸を広げていくために必要な議論はいまのうちからやっていくべきだとは思うのですが、むしろいまは「日本の大学ランキングが世界で劣位にあってどうしようもない」って話ばかりが話題になるので、なんだかなと思うわけですよ。
まあ、日本で一番でかい大学の理事長が相撲しか語らない素敵な人物だということから、いろいろ察するしかないのでしょうが。日本大学の医学部は、とても素晴らしいのにね……。