世は言語学ブームなのだという。たしかに書店に足を運べば、言葉や会話、言語によるコミュニケーションについて書かれた一般書が数多く平積みになっている。そんな一大ブームの立役者のひとつが「ゆる言語学ラジオ」。YouTube、Podcastで5年以上の長きに渡って展開されている人気トーク番組だ。
本書の著者はそのメインパーソナリティのひとり。言語マニアが高じて出版社の編集者になり、今も日々、仕事とプライベートの垣根を越えてひたすら言語の知識を蒐集し続けている。
本書は、その言葉に対する幅広い持ちネタを活かして書かれた言語学についてのエッセイ。親しみやすく、個性的なユーモアを湛えた文体で、圧倒的な情報量を読者の頭に流し込む。あまりの情報密度の高さにクラクラしてしまうのではないかと思いきや、内容の面白さゆえに一気に読み進められる。
「オースティンやソシュール、チョムスキーといった言語学者の難解な理論を扱っていますが、言語学の知識がろくにない私が理解できるまで、とにかく説明を噛み砕いていただきました。著者は教え上手で、文章にもそれがよく現れていると思います」(担当編集者の足立真穂さん)
飛び出してくる言葉に関する小ネタは、驚くようなものばかり。イギリスの裁判で「Let him have it」というフレーズを「警官を撃て」と解釈するか「銃を警察に渡せ」と解釈するかが議論になり、結果的には前者と判断されて死刑になってしまったケースなど、どれもインパクト抜群。雑学が身につき、会話のネタにもなりそうだ。
ヒットを支えたのは良質な読者コミュニティ。著者と距離が近いが節度はきっちり守る。イベントを開けば、小学生から高齢者までいる幅広い層のそんなファンが大勢集う。
「今の時代はSNSを始め、さまざまな場面で言葉にすぐ反応することが求められていますよね。この本はそれに対して『別に速くなくてもいいじゃん』と言ってくれている。実際にお会いしたときの著者自身のスタンスも寛容で、どんな人でも受け入れて話ができる雰囲気がある。そのイメージが読者が読者を呼ぶようにして広く伝わった結果生まれたヒットだと感じています」(足立さん)
