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ブロックチェーンの衝撃

 そしてフィンテックのなかでも、とくに未知の破壊力を秘めているのがブロックチェーンだ。

 ブロックチェーンは、コンピューター上にデータを蓄積する「分散台帳」のことだ。中央集権的な仕組みではなく、管理者もいない。誰もが自由にアクセスできるオープンで分散的な仕組みで、最新の技術で暗号化されたデータは、改ざんできないという。

 このブロックチェーンが普及すれば、ネット上で誰とでも信用をやり取りできる。相手の信用はブロックチェーンが担保してくれるので、銀行やカード会社を経由する必要がないのだ。

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 ビットコインなどの仮想通貨も、この技術を基盤に生み出された。仮想通貨「NEM」が交換会社大手コインチェックから流出し、仮想通貨の安全性に疑問が投げかけられているが、この流出事件は、法整備やコインチェックの企業統治の問題であり、ブロックチェーンの技術自体の不備が要因ではない。価格変動が大きく投機的な側面が拭えないビットコインなどの既存の仮想通貨が、円やドルに取って代わる通貨になるかどうかは疑問が残る。だが、仮想通貨を生み出すだけの技術的信頼性がブロックチェーンにあることに変わりはない。

仮想通貨での決済で銀行は不要に? ©iStock.com

 過去には塩、コメ、貝などが通貨の役割を果たした。その後、金や銀が貨幣になり、さらに金銀が紙幣の裏打ちとなった。紙幣と金との交換が停止されてからは、国家や中央銀行が、共同幻想の構築に一役買った。通貨の歴史は、通貨を流通させる信用(共同幻想)を何によって生み出すか、というゲームの歴史だ。ブロックチェーンという強力な技術が、何はともあれ新たな通貨を生み出す信用を曲がりなりにも形成し、通貨の歴史を塗り替えた点こそが重要なのだ。通貨や信用のやり取りを基軸とする銀行ビジネスを根本的に代替する可能性を秘めているからだ。

 例えば米国のモバイル送金サービスのアブラは、ブロックチェーンの技術を活用して、銀行を経由せずに、スマートフォンで、海外で働く労働者が祖国の家族に送金することを可能にしている。これにより、時間もコストも大幅に短縮できる。

 カナダの経営コンサルタントであるドン・タプスコット氏らは、『ブロックチェーン・レボリューション』(ダイヤモンド社)でこう指摘する。

「銀行や金融機関の役割が問い直されることにもなりそうだ。(中略)透明でありながらプライバシーが守られ、すべての人に開かれたイノベーティブな金融が実現できる」

人員削減計画も、ほんの序章に過ぎない

 証券会社や証券取引所を経由せずに、企業が仮想通貨で直接資金調達するICO(Initial Coin Offering)もすでに始まっている。ブロックチェーンの力で、誰もが銀行を経由せずにインターネット上で簡単に資金の貸し借りができる時代がくる可能性すらあるのだ。

 フィンテックの進展で中小企業や個人向けの融資、決済業務は、これまで以上にネットやスマホ経由に切り替わり、銀行店舗の必要性は一段と薄れていくだろう。信用力の高い大企業は、市場から株式で直接資金調達できるので、「いざという時のための銀行」という日本的な間接金融の慣行は、早晩、崩れ去るだろう。従来の間接金融の仕組みで利益を確保できるのは、一部の中堅企業向けに限られるのではないか。それも高度なコンサルティング力による付加価値の提供が不可欠となろう。

 さらに従来の銀行業務をそのまま代替しかねないブロックチェーンの破壊力は計り知れない。中央集権的なシステムの集積である銀行が、分散的な仕組みであるブロックチェーンを取り込むには困難が伴うだろう。

 いずれにせよ、日本の銀行は、膨れ上がった人員、資産(店舗・システム)、預金の3つの過剰という膿を出しきり、小規模でも新たな環境で稼ぐ力を鍛えなければならない。銀行の生き残りは、そこに懸っている。3.2万人超というメガバンクの人員削減計画も、ほんの序章に過ぎないのだ。