他者の不動産を勝手に売却し、金銭を騙し取るのが地面師事件。買い主を欺くために用意される重要なキャストが、不動産の所有者に成りすますニセモノ役だ。だが、先ごろ首謀者が逮捕された売掛債権詐欺事件では、取引相手を騙す場面に、成りすましではなく“ホンモノ”の関係者が登場して――。

 今年2月16日。架空の売掛債権を買い取らせ、取引相手の男性から現金9200万円を騙し取ったとして、自営業の近藤正浩容疑者(60)が詐欺罪などで警視庁に逮捕された。

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「被害に遭ったのは、ファクタリング業務を行うA社。ファクタリングとは、事業者が売掛債権をファクタリング業者に買い取ってもらうことにより、売掛金の入金日よりも早く現金を手にできる資金調達法のひとつ。近藤は取引上の書類を偽造するなどし、存在しない売掛債権をあるように見せかけて、A社から多額の金を騙し取った」(捜査関係者)

近藤容疑者(フォルティナ社HPより。現在は削除済み)

 広島県出身で早大大学院を修了した近藤は、コンピュータシステムを企画・販売する会社「フォルティナ」の社長だった人物。同社の看板商品だったのが、「効き脳診断BRAIN」なる適性診断サービスだ。要は、個々の脳の思考特性を分析することで、利き手や利き足のように、4タイプある利き脳(効き脳)を把握し、個人や組織のパフォーマンス向上に役立てようとするもの。一般企業や人材派遣会社などを主な顧客としてきたが、経営難に陥ったフォルティナは昨年9月、東京地裁より破産手続き開始決定を受けた。

 フォルティナのかつての得意先のひとつが、教育研修や業務コンサルティングなどを事業とするNTTグループの関連会社「NTT ExCパートナー」(以下、ExC社。前身の「NTTラーニングシステムズ」時代を含む)だった。

NTT ExC パートナー(同社HPより)

「譲渡された債権も存在しなかった」

 詐欺被害を受けたA社の社長が証言する。

「昨年6月、当社はフォルティナとファクタリング取引をし、9200万円、3800万円、500万円と3回にわたって、計1億3500万円を債権の売買代金として支払いました。フォルティナとExC社が結んだ研修委託契約に基づくとする売掛債権で、最初の9200万円の詐欺が、先日の近藤氏の逮捕容疑です。6月末、フォルティナの債権譲渡登記を確認すると、うち以外にも5件の登記がなされていることが分かり、近藤氏に問い合わせたのですが、『登記された理由は分からない』と要領を得ない。その後、ExC社の法務部の課長と話したところ、同社とフォルティナとの間にはすでに取引がなく、譲渡された債権も存在しなかったことが判明したのです」

 ExC社は2014年からフォルティナの適正診断サービスを利用していたが、2022年の時点で取引を終了させていた。近藤はどうやってA社を欺いたのか。そこで重要な役割を果たした人物がいる。ExC社の現役社員だった50代男性のX氏。彼はA社社長の前で、フォルティナとExC社の取引が続いているかのように振る舞っていたのだ。

 一体、どのような説明をA社社長に行っていたのか。X氏が巨額詐欺に加担した理由、A社社長が語る詐欺面談の詳細、X氏への直撃、ExC社側の回答などとともに事件を詳報した記事は「週刊文春 電子版」で配信している。

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