映画の冒頭、イ・ビョンホン演じる主人公ユ・マンスの人生は順調そのものだ。製紙会社では工場で重要なポストにつき、マイホームとして購入したかつての生家には自慢の温室、美しい妻に2人の子どもと家庭にも恵まれていた。それが会社の吸収合併により唐突に解雇されて、彼は人生の何もかもを失いそうになる。家では現実的な妻のミリが生活のダウンサイジングに余念がない。

©2025 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM ALL RIGHTS RESERVED

 ユの再就職はなかなか決まらない。希望する別の製紙会社のポストには、既に別の人間がいる。その男がネットにアップしている優雅な私生活の動画を見て嫉妬したユは、殺意を募らせていく。そしてその男だけではなく、再就職に際して自分のライバルになりそうな男たちをしらみ潰しにしていく殺人計画を思いつく。

©2025 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM ALL RIGHTS RESERVED

中年になった専門職の男性の再出発は難しい

 原作はドナルド・E・ウェストレイクが1997年に発表したスリラー小説の「斧」。英語で「解雇」を意味する言葉でもある。ウェストレイクは当時のアメリカで企業縮小の犠牲となった友人たちが再就職に苦戦をしているのを見て、このプロットを思いついたという。既にコスタ・ガヴラスの映画化作品があるが、パク・チャヌクにとっては念願の企画だった。今、この時代に韓国でこのブラック・コメディ的なスリラーを映画化する意味とは何なのか。クールな殺し屋ではなく、みっともない姿を晒しながら奔走する主人公から見えてくる。

ADVERTISEMENT

 中年になった専門職の男性の再出発は難しい。映画の中の殺人計画は乾いたコメディ・タッチで描かれていて、妄執に取り憑かれたユ・マンスの姿は滑稽そのものだが、切実で胸に迫るところがある。時代の変化についていけず、方向転換できない男の悲哀を感じるからだ。