海の生き物のなかでも、ひときわ人気の高いサメ。
そのサメの仲間が、じつは約4億年以上も前から存在していたことをご存知でしょうか?
約4億年前というのは恐竜ですらまだ姿もかたちもない時代です。そんな時代に現れたサメの仲間は、海の覇権争いでごく初期から主役を演じてきたのです。
サメの仲間の歴史を知ることは、海の生命の歴史を知ることです。
ここでは、100点以上のカラーイラスト&写真で海の生物史を徹底的に解説した新刊『海洋生命5億年史 サメ帝国の逆襲』の内容に沿って、サメの仲間たちの物語をかいつまんでご紹介していきましょう。
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①「4億年間の超長期政権」のはじまり、“初期のサメ”
現在の海には、300種を大きく超えるサメがいます。
その祖先をたどっていくと、行き着く時代があります。今から約4億1900万年前から約3億5900万年前の「デボン紀」です。いわゆる「恐竜時代」に先立つこと1億年以上の時代です。
デボン紀は、“特別な時代”です。
サメだけではありません。サメを含む魚の仲間全体、いや、すべての脊椎動物にとって、「デボン紀は、特別」であると言っても過言ではないでしょう。
約5億年前、魚たちは“狩られる”側だった
じつは魚の仲間の歴史は、さらに1億年ほど前に始まっていました。
しかし、基本的にその地位は「弱者」。
生態ピラミッドの下位に位置し、さまざまな無脊椎動物に襲われ、狩られる側の存在だったのです。
そんな魚の仲間が“革命”に成功し、海における生態ピラミッドの上位の座を無脊椎動物から奪い取り、そして支配者の地位を築いた時代。
それが「デボン紀」なのです。
革命に成功した脊椎動物は、その勢いのまま、デボン紀のうちに“上陸作戦”を成功させるに至ります。……が、そこから先の陸の話は、今回は脇に置いておきましょう。
現代のサメによく似たナゾの魚
海に注目すると、この革命の時代以後、現在に至るまで、魚の仲間たちは海洋世界における“長期政権”の維持に成功することになります。
およそ4億年間もの長期政権です!
その長期政権が始まって間もない海に、現代の海の王者であるサメ類とよく似た姿の魚がいました。流線型のからだ、発達した背びれ、幅の広いブーメランのような形の尾びれ。その名を「クラドセラケ(学名Cladoselache)」と言います。厳密な意味では、クラドセラケはサメ類ではありません。サメ類と同じ軟骨魚類というグループに属し、「初期のサメ」などと呼ばれています。
クラドセラケに代表される軟骨魚類は、当時の生態系の頂点にいたわけではありません。しかし、デボン紀以降にしだいに繁栄していくことになります。