僕にとって土星はラッキースター

――デビュー作であり石田衣良さんの代名詞であるIWGPシリーズですが、作品を書き始める前日にコンビニで女性誌の星占いを立ち読みしたと聞きました。そこには衣良さんの星座について、「土星の影響で運気が変わる」と書いてあったとか。

石田 文藝春秋の『CREA』という女性誌の96年4月号でした。牡羊座はこれから2年間、重圧の象徴の土星の影響下に入る、と。その2年の間に、自分の中にある何かをクリスタライズ、つまり結晶化させると良い、という占いだったんですけど、それを読んで「あ、これはじゃあ小説を書けということなんだな」と思って書き始めました。

 それで、その重圧の星が抜けた2年後に、初めての本が書店に並んでいたので、占いはぴったり当たっていましたね。それから30年ほど経ち、今年の2月14日に再び重圧の星である土星が牡羊座にやってきました。なので、今年はきっといいことがあるなと思ったら、こういうことがあったわけです。僕にとって、土星はラッキースターでしたね。

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――この作品は、初稿がもうほぼ最終稿になるというお話は本当なんでしょうか。

石田 小説は推敲して直すと良くなるという人もいるんですけれど、僕は直すのが嫌いなので、直さないようにしようと思っています。

IWGPシリーズは雑誌『オール讀物』に好評連載中(撮影:文藝春秋)

――若者を書き続けていらっしゃいますが、若者の変わらない特質を石田さんはどのように考えていますか。

石田 もう若者を描いてるつもりは僕は全くなく、今目の前で起きている世界のことをできるだけ鮮やかに書き留められるといいなと思って書いています。正直に言うと、最近の若者に関しては、歳を取ったせいか「なっちゃいねえな」とは思いますけど(笑)、もう仕方がないですよね。

――池袋の風景もだいぶ30年で変わったと思いますが、今でも池袋には足を運ばれていますか。

石田 たまに行って、街の様子を見て写真を撮って、ということはしています。ただ、以前しばらく池袋に住んでいたことがあり、もう街が手の内に入っているので、あまり調べるということはないですね。

石田衣良さん(右)、吉川英治文学賞を受賞した朝井まかてさん(中央)、吉川英治文学新人賞を受賞した伏尾美紀さん(左)と(撮影:文藝春秋)

――約30年前から書き始められ、長く続いているシリーズなので、読者の方も幅広い年代になっていると思います。読者からの反響などで実感される部分はありますか。

石田 「これから結婚するんです」とカップルでサイン会にいらした方が、何年後かに本当にお二人のお子さんと一緒に来てくださったことがありました。時代が流れるし、やはり読み手の方も年齢を重ねていらっしゃるんだな、ということは感じます。

 でも、実は、作家の中には一人、“自分にとっての理想の読者”みたいなものがいて、その人物は、性別も関係ないし歳を取るということもないんですよね。なので、自分の中にいる誰かに向かってコツコツ書いているという気がしています。暗闇の中で、こう、石でも投げるように書いているって感じが、小説にはあるんですね。

――主人公のマコトの見解は、石田さんご自身の見解と考えてよいのでしょうか。

石田 95%ぐらい僕の見解ですね。マコトは工業高校卒で、果物屋の店番なんですけれど、書きながら自分でも「こいつはなんてセンスがいいやつだ」と呆れていることがあります(笑)。

(3月5日、都内ホテル記者会見場にて)

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