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「看護師さんが話しやすい」「同世代なので気がラク」

原純一副院長

 開設したAYA世代専用病棟は、「看護師さんが話しやすい」「同世代なので気がラク」と患者や家族からの評価が高い。中には、AYA世代専用の病棟があると聞いて、遠方から来院する患者もいるという。

 AYA世代のがん経験者や小児がん経験者の中で病棟への要望で多いものは、「きょうだいや友だちとゆっくり話せる場所がほしい」という意見だと原純一副院長は言う。「プライバシーの保てる場所がほしいという意見も多くあります。この世代にとっては特に、きょうだいや友だちが非常に重要なので、そういう人たちと話をしたり、ゆっくり一人で悩んだりできる場所や、勉強できる場所を、この病棟では意識して設けました」

 泉谷看護師長は「消灯時間を成人と同じ22時にして、感染症のリスクが高い小児科に比べ面会時間の制限をかなりゆるくした」と病棟ルールについて説明する。Wi-Fiの持ち込みも可能で、入院患者からは、「自分のベッドで好きにスマホやゲームができるのが嬉しい」という声も聞く。

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 悪性リンパ腫の治療で千葉から来ているK・Hさんは、原副院長の治療を受けるために大阪市立総合医療センターへやって来て、AYA世代専用病棟の存在を知った。症例の特殊性から、小さな子どもしかいない小児科への入院も覚悟していたところ、AYA世代専用病棟があると聞いて入院を決めたと経緯を話す。「この病棟は、小児科と違って携帯やゲームをベッドで自由にさせてもらえるところがいいです。友人とはオンラインゲームでいつでもつながれるので、寂しさを感じなくてすむ。千葉にいる父親ともゲームで一緒に遊ぶことがあります」という。

K・Hさん

 今は放射線と化学療法の治療を行うK・Hさん。体調がすぐれない時もあるというが、「絶対に治す」という気持ちは入院前から変わらず持ち続ける。「自分の病気が、がんだと聞いた時は頭の中が真っ白になった。でも絶対に治して千葉に帰るつもり。友達にもそう話しています」

AYA世代の多くは、退院した後の人生の方がはるかに長い

 原副院長は、同時に、AYA世代のがん治療には、患者と同じくらい家族が他の患者さんの家族とつながる機会提供の場が必要だと話す。

「小児がんだと、小さい子どもが多いということもあり、カーテンを開けて親や家族同士も一緒に話をするケースが多い。でも、AYA世代のがんの場合は、患者さんが難しい年頃なので、カーテンを閉め切って隔離された空間で過ごすケースが多くなります。同じ“がん”という重みを抱えた患者やご家族同士が話をする機会を提供するのも、私たちの重要な役割だと考えています」

 原副院長がそう力説するのには理由がある。AYA世代のがん患者の多くは、退院した後の人生の方がはるかに長いからだ。

 

「闘病中はどうしても治療や入院生活のことだけに目がいきますが、入院というのは、相談できるスタッフや仲間を見つけたり、これから先の将来をどう生きていくかを考えたりするなど、退院した後の準備期間でもあるんです。AYA世代のがん治療は、通学や仕事の負担にならないよう、基本は極力外来治療です。ただ、1回の入院は短くても、がん化学療法は何度も行うので、1年くらい入退院が続くケースも多い。そうしたAYAのスペシャルなニーズに応えられる専用病棟は、私はあったほうがいいと思っています」(原副院長)

 泉谷看護師長も「家族、特に親のケアは重要」と話す。「小児もそうですが、AYA世代のがん患者の親御さんはお子さんの前では泣けないので、ちゃんと泣ける場を提供しなくてはいけない。病院のスタッフはもちろん、分教室(院内の学校)の先生などとも連携して、必要な人が必要な時にフォローに入れる環境を提供していくことも、病院の大事な役割だと考えています」

写真=末永裕樹/文藝春秋
(#3に続きます)