「内臓がぐつぐつの状態でご遺体を運んだ」――。火葬の途中で炉の火が消える「失火」は、火葬場でまれに起きるトラブルだ。元火葬場職員の下駄華緒さんは、著書『最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常』第5巻でその実態を描いている。

 普段は知ることのない、火葬の現場で起こる壮絶なトラブルと、職員たちの冷静な対応について話を聞いた。

 元火葬場職員・下駄華緒さん ©細田忠/文藝春秋

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「10数回は経験したと思います」火葬場での失火トラブル

 下駄さんは、古い火葬場で勤務していたため「10数回は経験したと思います」と失火トラブルを振り返る。機械のトラブルは時間との戦いだ。火葬時間は余裕をもって遺族に伝えられているため、5分から10分程度の遅れなら調整が可能だが、それ以上になると次の火葬にも影響が及ぶ。

 職員総出で対応しても復旧しない場合、最終手段として「火葬途中のご遺体を他の炉に移し替える」という判断が下されることがあるという。

 しかし、これは職員が最も避けたい事態でもある。炉の番号と遺体を結びつけて管理しているため、移し替えは「お骨の取り違え」という重大事故につながるリスクをはらむからだ。

 また、日本の葬儀儀礼では「戻る」ことが良しとされず、一度炉に入れた遺体を出すことは避けられるべきだと考えられている。

 

「一番むごい」ご遺体が生焼けの状態で…

 それでも、ご遺体を移し替えざるを得ないケースは存在する。下駄さんは、実際にその状況を経験した人から聞いた話として、漫画で描いたエピソードを語る。

 それは、ご遺体が「生焼け」の状態で失火し、予備のバーナーもなく、炉を替えるしか選択肢がなくなったという壮絶な現場だった。

 下駄さんによると、「火葬を開始してから15分後ぐらいが、ご遺体の状態としては一番むごい時間帯」だという。そのタイミングで炉から出すとなると、「水分の多いお腹のあたりから小腸がプルプルと出てきたり、腹水が溜まっている方だとお腹から水がピューッと出てきたりもする」状態のご遺体を動かさなければならない。

 強烈なのは見た目だけではない。普段、肉が焼ける匂いは「タレをつける前の焼き肉の匂い」に近く、不快なものではないという。

 しかし、「内臓の匂いはぜんぜん違う」と下駄さんは言う。普段は炉の吸引装置で抑えられているが、炉を開けてご遺体を移動させるとなると、ツンとした特有の匂いが火葬場に広がってしまうのだ。

 機械のトラブルには、バーナーを替える、火を止めるといった何かしらの「正解」が存在する。しかし、下駄さんは「ご遺族への対応となると、話は別です。相手が違えば状況も違う。その場その場で判断するしかない」と語る。

 トラブルの裏側には、冷静沈着に対応しながらも、常に最善の選択を模索し続ける職員たちの姿があった。

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 以下のリンクから、火葬場の実態を描いたマンガ『最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常』のエピソードをお読みいただけます。

INFORMATION

「火葬場を覗く展」開催のお知らせ

火葬場の知られざる現場を紹介する展示イベント「火葬場を覗く展」が、3月21日(土)から29日(日)まで開催される。元火葬場職員・下駄華緒さんによる展示や解説を通して、普段は知ることのできない火葬場の仕事や実態を知ることができる。

【開催概要】
開催日:2026年3月21日(土)〜3月29日(日)
時間:10:00〜18:00(最終入場17:30)
会場:文春ギャラリー紀尾井町
〒102-0094 東京都千代田区紀尾井町3-23

予約ページ
https://livepocket.jp/e/weahf

公式HP
https://www.kasouba-nozoku.com

ショートCM
https://youtube.com/shorts/nnGHxvjKjRg?si=yLJisalM-EhsN3hA

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