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運行の見える化で路線バスを最適化

 谷島社長は各バスの乗降口に赤外線センサーとGPSを取り付け、停留所ごとの乗降人数、停留所間の乗客数、バスの定時運行状況などのデータを収集した。当時、こうした試みは国内では例がなく、独自にシステムを開発した。

 データだけでなく、地域住民が路線バスに何を望んでいるのか、車内に設置したアンケートで顧客の声を集めた。

 この結果、いままで見えなかった乗客の動きやニーズが見えてきた。利用客の少ない時間帯や区間の運行本数を減らし、多い時間帯などは逆に増やした。時刻表と実際の到着時間のずれが大きい場合は、時刻表の表示を現実に合わせた。

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©2018 EAGLE BUS CO., LTD

公共交通が交通弱者を切り捨ててはいけない

 この結果、収支が改善し、遅延も減った。2015年までは年間6万人ずつ乗客数が増えたという。だが、谷島社長は目的は損益ではなく、利用者が増えることと顧客満足度だと語る。

「例えば、ある区間の乗客数が少なくても、ひょっとしたら高齢者が通院のために使っているかもしれません。単に収支で考えると交通弱者を切り捨てることになる。公益交通がそれをやってはいけません」と語る。

 見える化が重要なのではなく、そこで得られたデータを人間がどう判断して使うかが問われるのだ。

利用者数を4割増やした「秘策」

 谷島社長は単に路線の運行状況やダイヤを変えて最適化しただけでなく、乗客や周辺住民が利便性を感じる施策を打っている。

 その1つが「ハブ&スポーク(拠点)」である。ときがわ町路線において町の中心部にバスセンターを設置し、そこから東西南北に路線を延ばすハブ方式で運行距離が短くなり、運行本数が増えた。また、山間地域は従来より停留所を増やして、小型バスとワゴン車による利用予約式のデマンドバスを走らせた。

 この結果、輸送量は1.5倍から最大3倍まで増え、利用者数は4割増えた。

 また、小川町から東秩父村を結ぶ路線では、ハブ&スポークに施設を加える過疎化対策方式を生み出した。東秩父村は人口が3000人強で高齢化率が3割を超える過疎の村だが、自然に恵まれ、和紙(細川紙)を伝承している。そこで、和紙すき体験や宿泊施設・レストラン、特産品直売所などがある和紙産業振興施設「和紙の里」にハブ&スポーク方式のバスセンターを設置、土産物売店や観光情報の提供、コンビニ機能などを強化して2016年にリニューアルオープンした。

東秩父村路線「和紙の里ハブターミナル」 ©2018 EAGLE BUS CO., LTD

「過疎で人口密度が希薄になると、店などのサービスがなくなっていく。そこで、バスと施設をてこに人を集めて活性化すれば、サービス施設も復活するし、観光客も増えます。いわば、“交通町づくり”です。効率的に運行できるのでバスは4両から3両に減らしても輸送力は変わりません」

 結果、和紙の里の入場者数は70%増え、直売所の購買人数も29%増えた。東秩父村にはハイキングコースもあり、週末になるとバスがハイカーで満員になるという。

 谷島社長は単なる合理化ではなく、利用客と地域の人々の心をつかんで路線バスを再建した。データを活かすのは人であり経営者であることを谷島社長は示してくれたようだ。

#2#3へ続く)