地方の路線バスはその8割が赤字経営だ。毎年1500~2000kmの路線が廃止される中、自動車免許返納などで移動手段を失った交通弱者が増え続ける。路線バスを再建する手段はないのか。運行データの見える化と徹底した顧客視線で赤字路線を黒字化し、埼玉県川越市の町おこしにも貢献してきたイーグルバスの谷島賢(まさる)社長に聞いた。(全3回の1回目/#2#3へ続く)

谷島賢社長 ©末永裕樹/文藝春秋

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注目集めた岡山県のバス路線廃止騒動

 2018年2月、岡山県で路線バス事業などを営む両備ホールディングスが、運行する78路線のうち、赤字額の大きい31路線の廃止届を提出すると発表して大騒ぎになった。

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 その言い分は、数少ない黒字路線である岡山市内中心部に競合会社が安値で参入したことを当局が認めたことへの抗議だった。

 川越市に本社を置き、送迎・路線・観光バス事業を営むイーグルバス(売上12億5000万円、従業員220名)の谷島賢(まさる)社長は、この発表を聞いても驚かなかったという。

「一気に31路線も廃止したら運転士が余ってしまうはずなので無理だと思いましたよ。これは赤字路線問題ではなく、参入を許した行政への強烈なアピールです。この問題は、2002年に道路運送法が改正され、需給調整規制を廃止、路線バスへの参入も撤退も免許制から許可制に変わったことから始まっています。門戸を広げたのはいいが、誰も赤字路線には入ってきませんよ。既存のバス会社はその赤字も背負ってやっている。厳しいようですが、バス会社が儲かった時代もあるのですから仕方ありません。私は公共交通を担っている以上、赤字でも安心安全に運行することが義務だし、自治体は事業者間の問題を調整する必要があると思います。それ以外は、自由に戦えばいいじゃないですか」

高萩駅 ©2018 EAGLE BUS CO., LTD

 谷島社長の思ったとおり、その後、石井啓一国土交通大臣が地域公共交通の維持を図り、自治体や地域関係者の協議が必要だと述べたこともあり、それまで9年間開かれていなかった地域公共交通対策協議会の開催が決まり、両備側は廃止届を取り下げた。