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「勝手に想像できる『隙間』が多い」芥川賞作家・村田沙耶香さんが縄文時代にハマった理由

アートな土曜日

2018/08/25
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縄文の社会に行ったら自分はどう生きるんだろう

「ほんの少しのヒントから、どこまでも想像を膨らませていくことができる。それが縄文のすてきなところです。

火焔型土器 新潟・十日町(十日町市博物館保管)

 今回の展示には、たしかに立派な土器や土偶がたくさん並んでいました。それでも古い時代のことなので、江戸時代や鎌倉時代なんかと比べれば、当時の暮らしについての情報量はかなり少ないのですよね? いまの私たちに与えられているのは、ほんのちょっとした時代の残骸だけ。だからこそ、こちらが勝手に想像できる『隙間』がたくさんあって、おもしろく感じられるんです。

 その残骸をもとにした検証や研究によって、縄文時代の生活についての定説が築かれているのだろうとは思います。でも『隙間』が多いぶん、『こうであったかも』という可能性を、いくらでも考える余地があるのが興味深いです。

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 そこで私はつい、縄文時代という舞台を借りて、勝手にあれこれ思考実験をしてしまいます。彼らも集団で暮らしたのだとは思いますが、じゃあ家族というくくりはあったのか、それはどんな構成だったのだろう。一夫多妻制だったのか、子どもは産んだ夫婦が育てたのか、狩りはどんな感じだったのか……などと、とめどなく」

 なるほど縄文の遺物は、想像を引き出す格好のタネになるということか。

村田沙耶香さん

「そう、とにかく想像するのが好きなんです。ひとりで思考実験をして、勝手な想像をして、頭の中で何かを発見して既成概念が崩れると、うれしくてたまらないです。

 そういう瞬間を、小説を読むとき・書くときには探していますし、日常でもいつも求めています。縄文は私にとって、想像のきっかけになってくれる大切な存在です」

 どこかの時代にタイムスリップできるとしたら、村田さんは迷わず縄文時代に身を置くという。

「行ってみたいですね、ぜひ。言葉や文化、習慣は違うとはいえ、人としての基本的な営みや考えていることは、いまとさほど変わらないんじゃないかという気もします。

 自分は縄文の社会ではどう生きるんだろう。人間関係はどうなるのか。きっと、どんぐりを採ってくるよう言われてせっせと集めてきたら、『村田さんのは、まだ青いのばっかり。これじゃあ食べられない。やり直し』などと叱られたりしているんじゃないか。そんな想像をしていると楽しいです。実際に体験することができたら最高なんですけどね」

村田沙耶香さん撮影=黑田菜月

「勝手に想像できる『隙間』が多い」芥川賞作家・村田沙耶香さんが縄文時代にハマった理由

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