『コズミック・ガール 宙わたる教室』伊与原 新(文藝春秋)

 あぁ、もう伊与原さんが描く優しい(易しいじゃない!)科学小説は最高過ぎる!

 都立東新宿高校定時制の感動再びだ!

 2024年に窪田正孝主演でNHKドラマにもなった『宙わたる教室』で、これ以上に心が震える高校科学小説はもう出ることはないだろう、と思っていた。けど、出ましたね。いや本当にごめんなさい。

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『コズミック・ガール 宙わたる教室』は前作同様に定時制に通う人たちの持つそれぞれの困難を、仲間がそして「科学」がしかと掬い上げていく。

 中学受験からの脱落って本人にとってはかなりのダメージだろう。人生で初めて味わう挫折かも知れない。でも今回の中心人物である佐那のある意味「空気の読めなさ」がポジティブに働いていくのがいい。このあたり、多くの人が持つ「障がい」というほどではない困難さや特性をネガティブなものとして扱わない伊与原さんの視線がさりげなく効いている気がする。

 全日制の進学校であればマイナスにしかならない特性も、様々なバックグラウンドを持つ、均一ではない仲間たちとの間ではプラスになることもあるのだ。その可能性を救いに感じる読者も多いのではないだろうか。

 今作のクラスメイト達もいろんな困難を抱えている。父子家庭で金銭的にも余裕がなく学力的にも問題のある翔太の純粋さと切実さ。リンパ腫で入院していたため院内学校、通信制、定時制、といろんな学校に通った経験のある理の、病気を抱える仲間たちへの痛切な思い。中国残留孤児であった祖母の元へ家族でやってきたゲーマー宇辰の日本人への憎悪。そして最強の協力者みちるの表面的には分かりにくい筋の通った優しさ。それらが「自分たちの力でロケットを飛ばす」というひとつの目標に向かって螺旋のように伸びていく。

 そこに、原点である『宙わたる教室』のメンバーたちが集まってまさにアベンジャーズ状態! 伝説の科学部を作り上げた藤竹の謎も絡んできてとにかくワクワクとドキドキが止まらない。

 ペットボトルで作ったロケットを水で飛ばすのは科学の実験でよく見かけるけど、それを百メートル規模で打ち上げるという壮大な計画に「いやそれはちょっと無理でしょ」と読みながら心配してしまう。しかもロケットは手作り、なおかつ燃料がでんぷんって!! バック・トゥ・ザ・フューチャーのデロリアンかい!!

 彼らの不可能を可能にする、あきらめない強さがまぶしい。知らないことを知る喜び、困難を乗り越えていく柔軟性、仲間を頼ることのできる信頼関係、伝説のメンバーよりももっとさまざまなアプローチを見つけてくる彼らの力強いタフさにスタンディングオベーションを贈りたい。

 読みながら全力で彼らを応援し続けていたので読み終わった後の疲労感がハンパない。けれどそれがまたとても心地よいのだ。

いよはらしん/1972年、大阪府生まれ。神戸大学理学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科で地球惑星科学を専攻。博士課程修了後、大学勤務を経て2010年、『お台場アイランドベイビー』で横溝正史ミステリ大賞を受賞し、デビュー。19年『月まで三キロ』で新田次郎文学賞、静岡書店大賞、未来屋小説大賞を受賞。23年刊行の『宙わたる教室』は第70回「青少年読書感想文全国コンクール」の課題図書(高等学校の部)に。また24年10月よりNHKにてドラマ化され好評を博した。25年『藍を継ぐ海』で直木賞を受賞。近著に『翠雨の人』『コズミック・ガール 宙わたる教室』。

ひさだかおり/精文館書店中島新町店勤務。「WEB本の雑誌」や文芸誌書評、文庫解説などでも活躍中。

伊与原新さん

コズミック・ガール 宙わたる教室

伊与原 新

文藝春秋

2026年4月22日 発売

宙わたる教室 (文春文庫 い 106-3)

伊与原 新

文藝春秋

2026年3月4日 発売