3月20日発売の『週刊文春』の名物連載「阿川佐和子のこの人に会いたい」に、作家の伊与原新さんが登場。昨年『宙わたる教室』がNHKでテレビドラマ化され大きな話題になり、今年『藍を継ぐ海』で直木賞を受賞した伊与原さんが、作家になった経緯から近況までを語った。
研究者から作家へ
伊与原さんは、神戸大学理学部を卒業後、東京大学大学院で地球惑星科学を専攻し、博士号を取得した元研究者という経歴を持つ。専門は地磁気の研究で、30億年前の地球の内部で何が起こっていたのかを知りたいという思いで研究を続けていた。しかし、なかなか信頼できるデータが得られず、研究に限界を感じるように。そんな中、ストレス解消のために読んでいたのがミステリ小説だった。
「そのうちにいい交換殺人のトリックを思いついたので、自分でも書き始めました。富山大に助教として勤めていたときですね」
初めて応募した作品では受賞できなかったが、2010年に『お台場アイランドベイビー』で横溝正史ミステリ大賞を受賞し、デビューを果たす。その後、2011年に大学を辞め、小説家一本で生きていくことを決意した。
しかし、作家デビュー当初書いていた科学をトリックに使ったミステリは、読者からの反応をあまり感じられなかったという。
「デビューから5、6年はミステリで頑張っていたんですけど、売れないし、話題にもならなかった。ありがたいことにオファーが途絶えるということはなかったんですが、僕としては『読者に読まれている』という感覚が一切なかったんですよね」
「オチがなくていいんですよ」
科学ミステリにも行き詰まりを感じていたころ、新潮社の担当編集者から「何の起伏もない小説」を提案された。
「『オチがなくていいんですよ』ともしつこく言われましたね。それで書いてみたのが『月まで三キロ』です。その作品が評価されて、読者が目に見えて増えました。
みんなが興味を持つのはやっぱり人間の話なんですよね。(『月まで三キロ』の表題作の中で)タクシーの運転手が月の成り立ちの話だけをしてても小説にはならなくて、生活の悩みとか生きていくことの大変さの話があり、その背景に科学の大きな世界があるという状態をつくるのが、意外と新しい試みだったのかもしれません」
直木賞受賞作『藍を継ぐ海』の執筆秘話や、研究者から作家への転身、科学と文学の融合、作品の舞台となった地方都市からの反響などを阿川佐和子が聞き出したインタビューの全文は『週刊文春 電子版』および3月20日発売の『週刊文春』で読むことができる。
