「うぐー」と言われて、人は何をしようと思うか
――目的が達成されるとシュンと静かになっちゃって、ちょっと哀しい感じさえしますよね。
岡田 その完璧さ、隙のなさってコミュニケーションにとっては壁になりうるし、目的しかないっていう切なさみたいなものにもつながりますよね。そういう機械ばっかりに囲まれて生活するのって、嫌じゃないですか。ではこの社会において、人と機械が共生するいい状態って何だろうって学生たちと考えていて、そのキーワードの一つが「弱さ」。一方的にならない、不完全な「隙」を作って、お互いが関与し合う関係性です。
――さっきのロボットたちはみんな、人が手助けしたくなる「弱さ」を醸し出していましたもんね。バネによるふらつきなんかにも、すっかりやられました。
岡田 このToufu(トウフ)ってロボットなんて、その最たるものなんじゃないかと思います。ちょっと話しかけてみますよ。「今日は寒いね」。
トウフ ヴーヴーヴー(カタカタカタとふるえる)。
岡田 もはや言葉といえない言葉を発するコミュニケーションロボットです。赤ちゃんが発する「うぐー」みたいな音、あれを「喃語(なんご)」と呼ぶんですが、それにちょっとした動きが加わったロボットです。私の「寒いね」って言葉に対して、なんかリアクションを起こしたでしょう。意味はわかんないんだけど、勝手にこっちは「寒いって言いたいのかな」なんて解釈してしまう。これも、ロボットが差し出す「弱さ」に対して、人が関与する一例です。
委ねあって初めて成立するのがコミュニケーションなんです
――人と人との間には、完璧すぎて一方的になってしまうコミュニケーションってありますよね。
岡田 大人の社会では言い直し、言いよどみはダメで、流暢に過不足なく完成されたものが100%伝わるのをコミュニケーションだと思われてますからね。でも、本来のコミュニケーションって、お互いに委ねあって初めて成立するものだと思うんです。言葉だって、それ単体で意味が完結してるわけじゃありません。
「どうもご無沙汰してます」でも「お世話になります」でも「今よろしいですか」でも、とりあえず相手に話しかけてみる言葉ってありますよね。あれはまさに相手に委ねている言葉。言われた側は「ご無沙汰してます」に対して丁寧に意味づけをして「いつ以来ですかねえ」なんて返してきて話が転がり始めます。人が話す本来的な姿は、言葉を投げかけて身を委ねるところにあります。それは完璧とは逆の、不完全なままの行為なんですね。まさに研究室のロボットが備えている「弱さ」。一方的にならない「隙」です。
――コミュニケーション上手の人は、その弱さ加減がいい塩梅なんですか。
岡田 そうだと思います。でも、ちょっとあざとい人もいるでしょう(笑)。それはちょっと小賢しい印象に見えちゃうから注意が必要ですね。