2025年度に掲載した記事の中で、特に反響が大きかった、2025年10月3日に配信した特集「法廷ファイル」の記事を再構成して掲載します。
「買主はもう決まっています。あとは手続きだけ」──。男にそう告げられ、言われるがまま次々とお金を振り込んだ。だが、実際には買主などいなかった。契約書や名刺、丁寧なメールのやりとり…巧妙な偽装で、被害者は4人、被害総額は2500万円以上にのぼった。
東京23区の中古マンション平均価格が1億円を超え、不動産市場が活況を呈するなか、地面師などの詐欺師たちもまた、カネの臭いに吸い寄せられていく時代。信頼を逆手に取った犯行の構図が法廷で明らかになった。
決済延期…積み重なる費用
「ローンが通れば、すぐに決済できる」。男はそう告げてきた。
東京都内のマンションを売却しようとしていた30代男性に対して、男は買主が外食産業のオーナーで、社員寮として使いたい話があると伝えた。男性の元には契約書が送られ、預かり証の画像も届いた。“手数料”や“リフォーム費用”を振り込み、すべてが順調に進んでいるかのようにみえた。
だが、決済は何度も延期され、費用だけが積み重なっていく。
「買主がローンを通すために、物件の価値を上げる必要がある」
男にそう言われ、リフォーム代や適合証明書の費用を求められた。振込先は、仲介業者の口座ではなく、なぜか“知人名義”の個人口座。だが、男性は疑わなかった。なぜなら、所有していた別の物件の売却は実際に成立していたからだ。
一度ちゃんと売れたため、その取引が信頼につながってしまった。
それが“仕掛け”だった。
丁寧なやりとり、契約書も存在
男は不動産仲介業者を名乗り、所有者に「買主が決まっている」と持ちかけた。契約書には実在する人物の名前が記され、手付金の預かり証も提示された。メールや電話のやり取りは丁寧で、名刺もあった。
だが、買主とされた人物は「そんな契約、知らない」と証言した。

