この手口で、男は4人から計2500万円以上をだまし取った。被害者の中には、売却の話を信じてローンの繰上返済まで済ませた人もいたという。

「会社役員が社員寮として使いたいので、相場より高い価格で購入希望している」

「司法書士費用が必要」

ADVERTISEMENT

「買主が不動産物件を購入するためローンの承認がまだ下りない」

そんな言葉を信じて、ある男性は2カ月間で30回にわたり計1000万円以上を支払った。

それでも決済は一向に進まず、買主も現れない。やがて弁護士に相談して、詐欺の可能性に気づく。

「返すつもり」も交際費に消え…

同様の手口で複数の人から巧妙に金をだまし取った男。
「いずれ契約が成立すれば返すつもりだった」と主張したが、裁判所は「実態のない取引を装い、金をだまし取った」として詐欺の故意を認定。2025年9月、東京地裁は懲役5年の実刑判決を言い渡した。

振り込まれた金は返金のために管理されていたわけでもなく、生活費や交際費に消えていた。「他の案件で収入があれば返すつもりだった」という供述は通用しなかった。

 

男は、実際に不動産仲介業者として活動していた経歴があり、名刺や契約書の作成にも慣れていた。共犯とされた部下とともに、複数の被害者に同様の手口で接触し、信頼を得た上で金を引き出していた。

仕組みに沿った“リアルなウソ”

名刺があり、契約書があり、会話は丁寧。
買主の名前も、社員寮という用途も、すべてが現実味を帯びており、荒唐無稽ではなく見抜くことが難しいリアルさがあった。

実際に一度売れた物件があったことも、信頼を後押しした。判決は「社会的信頼を損なう悪質な犯行」と断じたが、こうした事件は、特別な人だけが巻き込まれるわけではない。

信頼は、合理的な判断の積み重ねの中で生まれる。だからこそ、仕組みに沿った嘘は、誰にでも届いてしまう。それらを見抜く力と、未然に防ぐ仕組みの整備が問われている。

次のページ 写真ページはこちら