ピーター・ティールの軌跡
西ドイツのフランクフルト生まれで1歳の時、アメリカに渡り、少年時代を南アフリカやナミビアで過ごしたティール氏は、「テクノ・リバタリアン(科学技術を信奉する自由主義者)」を自認する。若い頃から哲学的な思考を巡らせ、GAFAMなどシリコンバレーに集積したリベラル系のネット・ベンチャーの起業家たちとは一線を画す。スタンフォード大学では哲学を専攻し、『スタンフォード・レビュー』という保守系の大学新聞を創刊して、多文化主義やポリティカル・コレクトネスに異を唱えた。
ティール氏は、法務事務官や通貨トレーダーを経て起業家に転じた後も「民主主義国家は有権者の多数意思により、長期的な自由やイノベーションを阻害する」と「反国家・反平等主義」を唱え続けた。1998年に起業したネット決済サービスの草分け「PayPal(ペイパル)」は、国家が司る「通貨システム」への挑戦、と捉えることもできる。
そんなティール氏の元に集まったペイパルの創業メンバーには、YouTube(ユーチューブ)の共同創業者、チャド・ハリー氏、スティーブ・チェン氏、ジョード・カリム氏やLinkedIn(リンクトイン)の創業者、リード・ホフマン氏がいる。ペイパルの競合であるX.comを創業したイーロン・マスク氏は、自分の会社をペイパルと合併させて、ティール氏たちの仲間になった。
ペイパルの株式を上場した後、2002年に同社をインターネット・オークション大手の「eBay(イーベイ)」に15億ドルで売却したティール氏らは一夜にして億万長者となり、それぞれの事業を立ち上げる。マスク氏は宇宙開発の「スペースⅩ」を起業し、電気自動車ベンチャー「テスラ」の経営権を取得した。
2007年に経済誌の『フォーチュン』がペイパル出身者たちを特集した記事の写真で、ティール氏をはじめとする仲間たちは西部劇の酒場を背景にギャングの出立ちで思い思いのポーズを取った。この写真をきっかけに、ティール一味は「ペイパル・マフィア」と呼ばれるようになり、フェイスブック(現メタ)やスペースⅩへの投資で巨万の富を得たティール氏は「ペイパル・マフィアのドン」と言われるようになった。
ペイパル創業から売却までの間にティール氏の政治思想を大きく変える出来事があった。2001年9月11日の米同時多発テロだ。それまで国家からの「Exit(退出)」を唱えていたティール氏が「安全保障」の重要性を認識し、「自由と民主主義は両立しない」という信条に「安全保障なしに自由も存在しない」を加えた。この転換が後の「トランプ支持」につながっていく。
※本記事の全文(約7500字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2026年5月号に掲載されています(大西康之「ハメネイ師斬首作戦とティールの水晶玉“パランティア”」)。
※全文では、以下の内容について詳しく語られています。
・戦争OS「ゴッサム」
・AIが支える戦場の意思決定
・影の大統領が来日した理由
出典元
【文藝春秋 目次】東京極秘対談 ティール×トッド 世界は終末を迎えているのか/池上彰×佐藤優 “暴れ獅子”トランプと“女豹”高市の生きるか死ぬか/官邸官僚の第二の人生
2026年5月号
2026年4月10日 発売
1300円(税込)

