2024年、『死んだ山田と教室』で鮮烈なデビューを果たした金子玲介さん。新刊『私たちはたしかに光ってたんだ』で描いたのは高校生バンドの青春だ。
「バンド名は恥ずかしくて言えないですが、私も高校1年の時にギターボーカルをやってて。音楽をみんなで奏でる楽しかった時間を小説にしたかったんです」
しかし、本作の魅力は爽やかな青春だけではない。物語冒頭、主人公の瑞葉はクラスメイトの朝顔にベースとして勧誘される。ところが、直後に描かれるのは、26歳の瑞葉の姿。監査法人で大量の業務に追われながらスマホを見ると、画面には発表されたばかりの紅白出場歌手と「さなぎいぬ(初)」の文字。そのバンドのWikipediaには「旧メンバー 室瑞葉」とある。
「自分が辞めたバンドが紅白に出る。その大枠とタイトルが最初に浮かんだんです。冒頭のシーンを保存したファイルの仮題から変わっていません。本作の原型は7年前、26歳で会計士をしながら小説を応募していた時期に書きました。企業の棚卸立会など、仕事の描写は実体験に基づいているんです」
そして場面は高校1年生の瑞葉に戻る。ギターの朝顔、ボーカルの葵、ドラムスの緋由(ひゆ)とファミレスに集まり、バンド名のアイデアを出し合う。瑞葉が提案してやっと決まった名前が「さなぎいぬ」だった。
「頭の中で4人をサイゼリヤに召喚して、自然にできた名前です。すごく可愛くて愛着がありますね」
結成早々、紅白出場という大きすぎる目標を掲げた朝顔。1年後、その夢は彼女が一人で作った初のオリジナル曲『光』によって現実味を帯び始める。
「メンバーが初めて『光』を聴くシーンはすごく力を入れました。歌詞を全文書いたんですが、もしそれがイマイチだと朝顔の天才感が出ない。ハイリスクな書き方でしたが、自分の中ではちゃんと書けました。光というモチーフには、青春の強い光で未来を照らしてほしいという思いと、好きなバンドたちが奏でてきた曲の影響もあります」
『光』に心揺さぶられ、4人は音楽フェスのオーディションに向けて練習に励む。続々とオリジナル曲を作る朝顔の力もあり、徐々に活躍の場を広げる「さなぎいぬ」。しかし、活躍するほどに朝顔の才能と比べられることが増えた瑞葉は、バンドメンバーとしての自信を失ってしまう。
「朝顔は才能もバンドを鼓舞する優しさもあるんです。でも、瑞葉は遠慮しちゃって気持ちを言えない。才能の差に鈍感になることもできない不器用な子なんです」
大学に進んだ瑞葉は、父の事務所を継ぐためにバンドを辞め、会計士を目指すという決断をする。
「仕事のために仕方なく辞めるのが建前なのは、朝顔たちもわかっているんです。でも、それを信じるからこそ、辞めた後も友だちで居続けられる。そうしたのは、私が人のことが好きだから。人の繋がりを過去のものにしたくなかったんです」
そして瑞葉は別の道を歩み始める。その背景には金子さんが込めたもう一つのメッセージがあった。
「本作は過去の選択や選んだ今を肯定したいという小説です。自分と朝顔の才能を比べて不器用な選択をしてしまった瑞葉も全肯定して救ってあげたかった。実は一人だけの視点で一作書くのは初めてなので、瑞葉には本当に思い入れがあって、話していて泣きそうになりますね。この小説を通じて、読者の皆様にも瑞葉のように自分の人生の大切な光を見つけてもらえたら嬉しいです」
かねこれいすけ/1993年神奈川県生まれ。慶應義塾大学卒業。2023年、『死んだ山田と教室』で第65回メフィスト賞を受賞し、翌年単行本デビュー。著書に『死んだ石井の大群』『死んだ木村を上演』『流星と吐き気』『クイーンと殺人とアリス』。

