証券投資マネーが日本に戻ってくる時、「失われた30年」は終わりを告げる
更に言うと、経済がインフレ状態になった今、マクロ経済政策ミックスをデフレ対応型から、インフレ対応型に修正することは、中長期的に日本経済にとってはプラスだと思います。
ザックリとした数字を使うと、仮に政策金利が2%になり、10年物国債利回りが3%になれば、生保などの投資家は、為替リスクを冒して米国債を買う必要はなくなるので、証券投資マネーは日本に戻ってくるでしょう。
また高市総理の唱える「危機管理投資※3」の多くは、トランプ氏の追求する「国家資本主義」と軸を同じくし、脱中国のサプライチェーン構築を念頭に置いたものです。つまり新自由主義の時代、価格競争力が乏しい日本での生産を海外に移転していた製品の一部は、国家安全保障の観点から日本国内での生産が必要となります。日本はGDPの3%近辺の経常黒字を計上していますが、そのほとんどは「失われた30年」の間、海外へ投資した資産からの収益です。しかし日本での設備投資が必要になるのであれば、こうした投資収益を国内に還元することができます。
証券投資と実需投資の両方が国内に戻ってくれば、日本人が日本に投資する環境が整いますし、それこそが「失われた30年」の終焉を意味します。その場合、円はおのずと安定し、あるべき水準へと落ち着くでしょう。
「塹壕戦」は終焉し、生産性の高い国へ
私は「失われた30年」とは、日本社会の選択の結果だと思っています。日本は生産性と経済成長を捨てることで、既存雇用を守ろうとしました。賃金をあげず、非正規雇用を活用するなど全体の労働コストを下げることで、籠城作戦に出たのです。攻めに出ない持久戦なので、コストカットに活路を求めるしかありません。
しかし今、多くの企業は5%など大幅な賃上げを中期経営計画に書き込むようになりました。それだけの賃金を払えなければ、人材を確保できないからです。賃金が毎年5%上昇するとの経営計画を念頭にすると、それに見合う収益を出し続ける必要があります。つまりコストカットで塹壕戦を生き残るビジネスモデルではなく、企業利益を拡大する為に攻めに出る必要があるのです。
賃金上昇に加え、金利の復活が加われば、高い付加価値を生み出している企業だけが生き残るという、健全な新陳代謝が強まります。
経済成長は最後、「労働者の数×一人一人の生産性」なので、構造的に労働者の数が減少する環境下、限られた労働力をより付加価値の高い場所へ移動させる必要があります。賃金、金利に加え、これを加速させるもう一つの手段は労働改革です。過去、日本は雇用維持を念頭に、雇用の流動化を阻害する措置を打ち出してきましたが、これが今では供給制約になっています。
塹壕戦は雇用破壊を最小化する手段であったのでしょうが、塹壕の中で細々と生きる生活は、当然の帰結として、強い閉塞感を生みました。
しかしこの時代は終わりました。それは日本経済にとって、未来を担う若者たちにとって良いことだと私は思っています。新自由主義が終わり、経済合理性が低下する為、世界経済全体でみるとマイナスですが、日本は相対的な勝ち組に入るチャンスを迎えています。しかしチャンスはチャンスに過ぎません。日本人自身がリスクをとり、これを掴もうとしない限り。
◆◆◆
※1政策金利…日本銀行が金融政策の目標として設定する短期金利の指標。この金利を操作することで世の中の資金量を調節し、物価の安定や景気をコントロールする。私たちの銀行預金の利息やローンの金利、企業の投資活動にまで広く影響を与える。
※2トラス・ショック…2022年にイギリスのトラス首相が打ち出した、財源の裏付けのない大規模減税案をきっかけとした市場の混乱を指す。ポンドや国債が暴落し、経済を混乱させた責任をとって彼女は史上最短の45日で退陣した。市場が政治の無策を厳しく裁いた事例。
※3危機管理投資…災害やテロ等の有事による損失を最小化し、早期復旧を図るための投資。内閣府の「国土強靱化」に基づくインフラ整備や、企業のBCP(事業継続計画)・サイバー対策などが該当する。平時からコストを投じることで、将来の甚大な被害を抑制し、持続可能性を確保する戦略的な取り組み。




