人生最後の社会貢献。遺言書の作成で財産を広く社会に役立てる
自分の財産を誰にどう託すか――。その意思を明確にする遺言書は、人生の集大成としてぜひ作成を検討したいものだ。大切な人へ感謝の想いを伝える手段としてや、財産を広く世の中に役立ててほしいという願いを具現化する場合にも遺言書は欠かせない。本特集では、遺言書作成の注意点や近年関心が高まっている遺贈寄付の実践方法について専門家に話を聞くとともに、具体的な遺贈寄付を紹介する。
法定相続分でない相続は遺言書作成が欠かせない
相続や贈与に関する税制では近年、大きな見直しが相次いでいる。例えば、2024年から生前贈与の課税対象となる加算期間が従来の3年から7年に段階的に延長された。実際に影響が出始めるのは27年以降だが、個人にとっては負担増となる改正だ。
また、不動産の相続登記申請が義務化され、不動産を相続した相続人は3年以内の相続登記の申請が必要になった。正当な理由なく登記を怠った場合は10万円以下の過料が発生する可能性もある。
「相続や贈与についてメディアで取り上げられる機会が増え、関心を持つ方が増加しています。その一方で、相続対策や揉めない遺言作成などに踏み出している方は、まだ多いとは言えません」
そう語るのは、相続税を専門とする円満相続税理士法人の桑田悠子氏だ。財産の分け方をめぐって残された家族が「争族」にならないよう、被相続人は相続に対する考えや希望を家族と共有し、必要な場合には、遺言書を作成しておきたい。
税理士 桑田 悠子氏
特に法定相続分と異なる割合で財産を遺したいが、争族があり得る場合、専門家への相談が効果的だ。「法定相続人が配偶者と子2人である場合、法定相続分は配偶者が2分の1、子がそれぞれ4分の1ずつとなります。しかし『家業を継ぐ長男に多く残したい』『介護してくれた長女に手厚く配分したい』といった意向がある場合は、生前贈与するか、遺言書にその思いを記しておくことが重要でしょう」と桑田氏は指摘する。
被相続人に離婚歴があり、前妻との間に子がいる場合も遺言書の作成が重要だ。前妻の子も相続人に含まれるため、後妻と遺産分割について協議しなくていいように、遺留分を鑑みた遺言書を遺すことが望ましい。
さらに相続人以外に財産を渡したい場合、遺言書がなければその意思は、確実には実現できない。「私の相談者にもお世話になったヘルパーさんや入居していた施設、大学、団体などへ財産の一部を遺したいというご要望をお持ちの方は少なくありません」と桑田氏は話す。昨今では人生最後の社会貢献として、財産を広く社会に役立てたいと考える人が増えているのだ。
寄付先とは生前のうちにコミュニケーションをとる
遺言書によって財産を寄付することを「遺贈寄付」といい、これを使えば、希望する団体やNPO法人、施設などに確実に寄付できる。多くの場合、相続税が非課税になる点もメリットだ。
遺贈寄付を検討する際の注意点として桑田氏は「生前のうちに寄付先とコミュニケーションをとっておくこと」を挙げる。寄付先によっては現預金だけしか受け付けないところもある。それを知らずに不動産を寄付する旨を遺言書に記載していると、いざ相続が起きた段階で寄付を断られてしまうことにもなりかねない。寄付したい財産を受け取ってもらえるか、実際の手続きがどのように進むかといった点は、生前に確認しておくと安心だ。
支援したい団体があれば、生前から少額でも実際に寄付しておくことも有効だ。団体の活動報告などを通じて、寄付金の使途や団体の実態への理解が深まるためだ。
遺言書の作成や遺贈寄付を検討するにあたり、何から着手するべきか。桑田氏は「まずご自身の財産の棚卸しをして、一覧化することが重要。次に『誰に』『どの財産』を遺したいか整理する。そして、その内容をご自身の想いとともにご家族に伝えてください。なぜ長男に多く財産を遺したいのか、なぜこの団体に寄付したいのか――。その背景にある想いや感謝の気持ちを生前に伝えておくことで、残された家族もきっと納得してくれるでしょう。さらに遺留分についても確認しましょう」とアドバイスする。
これまでの人生で築いた財産を自らの意思に沿った形で次世代に承継し、あるいは支援する団体などに寄付する。そのためには、この3つのステップを元気なうちから着実に進めておくことが肝心だ。