坂本の魅力を象徴するような神対応エピソード
さらに、坂本はプロスポーツ選手に最も大事な、唯一無二の価値を持っている。それはファンを球場に呼ぶ力、すなわち「人気」である。
個人的な思い出話で恐縮だが、坂本という選手の魅力を象徴する出来事だと思うので、1つエピソードを紹介したい。
僕はその日、アーリーワークを取材するため、宮崎のキャンプ地にある室内練習場で選手の到着を待っていた。「南国宮崎」という言葉が詐欺に聞こえるほど、2月の宮崎は寒い。強風に長時間さらされていると、意識が遠のいてくるほどだ。それでも、室内練習場の前には早朝から、選手にサインを求めるファンが鈴なりになっていた。誰かがミニバンで到着するたびに「サインくださーい」と多くのファンから声がかかる。ひときわ大きな歓声が上がったのは、坂本が到着した時だ。だが、朝はいかんせん時間がない。坂本は歓声には答えず、いつもの冷めたような、つれない表情のまま室内に入ってきた。
その様子を見るとはなしに見ていると、急に例のちょっと鼻にかかった高い声で、話し掛けられた。
「すんません。左側の一番手前の子たち、きょう帰っちゃうらしいんで、色紙とか預かってきてもらえませんか?」
「え? ああはい。ちょっと待ってて」
あんなに眠たそうな顔で歓声をスルーしてたのに……。僕はファンの集団の中からそれらしきグループを見つけ出し、声をかけた。
「坂本君がサイン書きたいそうなので、何枚か色紙預かります」
そう言った瞬間、彼女たちは人間こんなにうれしそうな顔ができるのか、という表情を浮かべて「きゃー!!!」と歓声を上げた。僕が女の子から歓声を浴びたのは、人生でこの時が最初で最後である。多分3人組ぐらいだった気がするのだが、色紙、ユニホーム、タオルなどがあっという間に積み上がった。「いや、これはちょっと多いかな」とたしなめていくつかに絞り、坂本のところに戻ってサインを書いてもらった。文字を書くのは左手なんだな、だから内角打ちがうまいのかな、などと思いながら戦利品を持って女の子たちのところに届けると「きゃー!! ありがとうございます!! (僕が所属していた)●●スポーツ読みますね!」とめちゃめちゃお礼を言われた。こんなにも人に感謝されたのは人生でこの時が最初で最後である。歓声をスルーするときの冷たい表情と、その後の神対応。こりゃモテる! きっとこの子たちはずっと坂本を応援し続けるだろうな、と思ったのを覚えている。
天才的な内角打ちと華麗さと勝利貢献度の高さを兼ね備えた守備で玄人をうならせ、甘いマスクとツンデレなファンサービスでライトなファン層を取り込む。こんな芸当ができるのは坂本以外にありえないし、そうそう出てくるはずもない。
だからこそ、巨人は坂本だけは絶対に手放してはいけないのだ。
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