きっとドウェインは「敗北が知りたかった」
05年のアカデミー長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した『未来を写した子どもたち』のワンシーンを想起した。インド・カルカッタの売春窟に生まれた子どもたち、彼らに同情した監督が動物園に連れて行く。はしゃぐのも束の間、狭い檻に閉じ込められた動物たちを見て、「私たちみたいね」と少女が呟く――。
それにしてもドウェイン・ジョンソンはどうしてマーク・ケアーを演じようと考えたのか。今や世界一稼ぐ俳優になった彼が。
きっとドウェインは「敗北が知りたかった」のだと思う。『グラップラー刃牙』のセリフみたいだが、本作が始まって数分で劇中のケアーが同じセリフを呟いているのだ。いまや天上人となった男の、ないものねだり。「強く儚い者たち」を知りたくて、自分から企画を立ち上げたのではないか?
最後に私の今の夢を書く。本作を嚆矢にして、グレイシー一族と桜庭和志の戦い、ヒョードル、ノゲイラ、ミルコの三強、そして高山善廣vs.ドン・フライ戦などが次々と映画化されて、プロレスや総合格闘技に興味がない人たちにも彼らがいたことを知って欲しい。僕たちは「男の星座」を見上げながら、これからも語られるべき悠久のファイトヒストリーに想いを馳せる。
ひぐち・たけひろ 1971年、東京都生まれ。2009年に『さらば雑司ヶ谷』にて小説家デビュー。近著に『凡夫 寺島知裕。「BUBKA」を作った男』『中野正彦の昭和九十二年 新版』(共に清談社Publico)がある。
INTRODUCTION
2000年を挟んだ数年間、日本は総合格闘技熱に沸いていた。大晦日には各テレビ局が格闘技興行を中継して視聴率を競い、外国人選手も人気に。特に高い支持を受けた興行「PRIDE」の初期に出場し、“霊長類ヒト科最強”のキャッチフレーズで活躍していたのが、マーク・ケアー。同興行が最高潮の盛り上がりを見せた「PRIDE GRANDPRIX 2000」の決勝戦にも勝ち上がった彼が、リング上の雄姿の裏で抱えていた苦悩を、原題と同名のドキュメンタリーに感銘を受けたドウェイン・ジョンソンがプロデュース・主演で映画化した。
STORY
アメリカの興行「UFC」から始まった総合格闘技ブームに触発され、全米王者にもなったマーク・ケアーはレスリングから転身。UFCでヘビー級トーナメントを2連覇するなどして頭角を現す。当時、世界最高峰だった日本の興行「PRIDE」にも出場するようになった彼だが、鎮痛剤への依存や、精神的に不安定な恋人ドーン(エミリー・ブラント)との関係に苦しみ、キャリアに翳りが見えてくる。大一番の「PRIDE GRANDPRIX 2000」で復活を期するが……。
STAFF & CAST
監督・脚本:ベニー・サフディ/出演:ドウェイン・ジョンソン、エミリー・ブラント、ライアン・ベイダー、バス・ルッテン/2025年/アメリカ/123分/配給:ハピネットファントム・スタジオ/©2025 Real Hero Rights LLC
