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徹底した「ファン目線」 オリックス名物球団職員が実践し続けていること

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/09/14

大切にしているのは、ファンとの距離感

 興味深い話がある。球団職員は選手に近い存在だ。花木さんもツイッターのアカウントを持っていて、自ら球団職員であることを名乗っている。しかし、選手とのツーショットや距離感の近い写真は、球団イベントのトークショーなどで選手と接するような場合を除き、アップしないという。

 その心は……
「僕はいつでも、ファンの側でありたいからですよ」

 ファンの側でありたい、球団職員の距離感。それは、苦情への対応などにも表れる。キャラクター立ちしているがゆえ、プロジェクトマネージャーの立場にある今でも、年に数回は運営担当から「花木さんと直接、話がしたいというお客さまが……。ちょっと酔うてはりますけど~」という電話があるそうだ。そんな時には指示された場所に向かい、そのお客を見つけるやいなや、こう言葉を発する。

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「どしたん! 今日は?」(=今日はどうしたの?)

 普通、こういう局面ではまず「このたびは申し訳ございませんでした」という体の文言から入り、相手の要望を聞く……というプロセスが、危機管理のマニュアルには書かれてあるはず。

 だが、花木さんは言う。
「僕を知っている相手は仲間だから。タメ口で入りますが、それで相手も仲間意識になって気は鎮まり、事は収まるんです」と。

 要は、話を聞いてほしいのだ。結局、窓口で延々とクレームを並べ立てていたその酔客は、花木さんと会うなりちょっとグチをこぼしただけで記念撮影し、上機嫌で帰っていったという。

“仲間意識”

 これは、花木さんが連綿と築き上げてきたファンとの信頼関係そのもの。それが、ファンと球団とを深く、強く結びつけていく。

 こういう人がリーダーであるから、先日の西日本豪雨の際にも、スタッフがファン目線で対応できたに違いない。DOMIさんが執筆して大きな反響のあった、「西日本豪雨で交通網が遮断 オリックス球団オペレーターがとった対応とは」。←まだ読んでいない人は、ぜひ読んでいただきたい。

 あるデータを紐解こう。@niftyがファンにアンケートを行った「プロ野球チーム人気ランキング」。去年の数字だが、同じ関西にある超人気球団のタイガースはシェア13.2%。これに対し、バファローズは2%しかない。その差は6.6倍の開きがある。しかし、主催試合を訪れた実際の入場者数を見ると、タイガースの303万人あまりに対し、バファローズは160万人あまり。2倍も開いていない(2017年・NPB調べ)。差は、一人ひとりのファンが足繁く球場を訪れることによって埋められている。リピーターにお得な、ファンクラブ会員向けの特典など仕組みづくりもあるだろうが、最前線で働く人の“現場力”も顧客満足度に大きく寄与していると思う。

 経営努力も営業努力も大事。しかし、ファンを育み、根付いてもらうために直接関わる現場の努力は尊い。そこを怠ると、スポーツビジネスはただのビジネスに終わり、そのコンテンツはやがて使い捨てられる。

 そんな球団にあって、花木さんの存在はとても重要だ。他にはいそうでいない。いい意味で、人たらし。飲み会の席で「新地(=大阪・北新地)のママやったら、むちゃくちゃお客を抱えてますよねー」と水を向けると、バーボンを片手に「それやったらむっちゃ儲かってるよなぁ~。……って、設定に無理ありすぎです! ママさんに叱られますわー」と、乗りツッコミで高らかに笑い飛ばす花木さん。その明るさが、現場を、そしてファンの気持ちを支えていると言っても過言ではない。

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