遺体に残されていた微量の砂が、卑劣な殺人事件を暴いた。
都内在住の芝崎芙美さんが旅先の海で遺体となって発見された。事故による溺死と見られていたが、被害者の妹からは殺人を疑う声が上がっている。夫・健吾さんが経営する会社の業績不振が続いており、妻の生命保険目当ての殺人ではないか、と言うのだ。しかし、県警は事故死として処理。遺族の疑念が晴らされることはないと思われた。
しかし後日、芙美さんの司法解剖の資料がとある監察医の元に届けられる。彼は遺体の気管支に多くの「砂」が残留していた、という所見を見た瞬間、他殺の可能性を強く唱え出した――。
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刑事と監察医がバディを組み不審死の謎を解明する法医学ミステリー
監察医・上野正彦氏による『死体は語る』は法医学入門の名著として、今なお多くの人に読まれ続けている。法医学を学ぶ医学部生だけではなく、数多くの推理作家がトリックの“元ネタ”とし、2001年には高島礼子主演のドラマ原作にもなった。
言わば、創作者にとってはバイブルのような存在である本書が、37年の時を経てマンガになった。
主人公は刑事の佐倉と監察医の出雲。大学の同級生だった二人がとある事件をきっかけに再会し、ことあるごとに佐倉が変死体を出雲に持ち込むようになる。出雲の解剖が死体に残された犯罪の痕跡を見つけ、佐倉の捜査の手掛かりとする。刑事と監察医がバディを組んで不審死の謎を解明していく法医学ミステリーとなっている。
冒頭の事件はマンガで描かれる第1の事件の概要だ。何故、気管支に砂が残っていると他殺の可能性が高いのかは本編で確認して欲しいが、死の真相のほかにもう一つ、考えていただきたいことがある。
何故、事故に見せかけて殺されたのか、である。
答えは単純で被害者の妹の想像通り、保険金目当てである。そこの意外性は論点ではない。金のために愛する妻を殺し、自分の犯行を隠蔽する工作を施した悪質さ、我欲の為に人ひとり殺せてしまう凶暴さに戦慄を覚えないだろうか。
加えて「気管支に砂が残る殺し方」もその凶暴さに拍車をかけている。それはつまり、死体に残された砂は夫の殺意の結晶とも言えるだろう。
死体に残された手掛かりは犯人を示すだけではない。犯罪を犯した人間の、どす黒い欲望も明らかにしてしまう。いわば、司法解剖で得られる所見は、人間の暗黒面を覗き見るよすがになるのだ。
死体は怖い。しかし、生きている人間の欲望が最も怖いのかもしれない……。


