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「ライジングは生まれ変われる」

「俺の中では『もう、あの曲の時代ではなくなった』ということで、ライジングは応援の選択肢からも外していたんです。よっぽどのことがない限りね」

 ある意味でライジングを使わなくなったことが、ベイスターズが変わったことの証でもあった。

 2018年。優勝を目指してはじまったシーズンで、ベイスターズはBクラスにあえいでいた。左腕王国といわれた3本柱は軒並み成績を落とし、昨年固まったはずのセンターラインはあえなく崩壊。梶谷もケガで離脱し、優勝は絶望的。CSも微妙という状況で後半戦に入る。

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 8月27日。全国星覇会、横浜ベイスターズを愛する会の二団体が公式ブログとFacebookで、それぞれに「ライジング」を積極的に使用することを宣言。

 続く9月6日。今度は球団がペナント最終1カ月のスローガンとして「VICTORY is within US.  熱く、熱く、立ち上がる。」を発表した。

 球団が公式でライジングを発動させたのである。

 賛否は当然分かれた。若いファンの反応は概ね好意的だったが、反対派のほとんどはあの時代を知るコアファン。「何故、負けテーマを今やるのか」「暗黒を思い出させる」「大嫌い!」など寄せられる予想以上の反響に球団側も戸惑ったという。そして改めて調べれば調べるほど、様々な思いを持つ人がいることを知り『使ってはいけない曲だったんじゃないか……』と不安になっていく。球団からライジングの使用を持ちかけられた谷口氏ですら当初はまだ複雑な思いがあったというのだから無理もない。

 だが、一方で両者には確信に近い思いがあった。

「ライジングは生まれ変われる」と。

時代とともに変わった解釈

 切っ掛けは7月22日の阪神戦だった。

 3-11とリードされて敗色濃厚となった9回裏。リードに立った全国星覇会・倉橋氏は、ライジングを選択する。最終回の8点差。それでもベイスターズは佐野、中川、楠本らのタイムリーで4点を返す粘りを見せる。スタンドの熱がどんどん大きくなり、一体となっていく。試合は11対7で敗れたが、その声量に、一体感に、ベイ愛の谷口氏は震えた。

「あの時のライジングは過去最高のライジングでした。スタンドが見事に一体になって、絶対に諦めないという雰囲気がぐいぐい伝わってきて……リードを取っていた倉橋に嫉妬しました。やるなぁって言いましたもん。その時思ったのが、みんなライジングの根底にある想いを、ずっと心の傍に置きながら応援してきたのかなって。そう思ったんです」

 この時の最終回のスタンドを、球団の担当者も同じような思いで見ていた。試合後、すぐに応援団の下へ行くと熱い思いを訴えていたそうだ。

「ライジングは変われます。この曲は勘違いされているので、正しい解釈に戻したい。シーズンで言えばこれからの季節は、ビハインドでの終盤になります。この曲と同じ状況です。積極的に使っていきませんか?」

 時代や背景が変われば、解釈なんて変わっていく。

 ガラガラの球場で半べそ掻きながら歌っていたライジングが、今、満員の球場で大きな合唱となっている。おそらく、主語である“俺たち”の解釈はもっと大きなものになっているのだろう。

「応援ってものはどんどん育っていくもの。最初は『たとえ俺一人でも変えてやる』って思いでも、今は昔からのファンも新しいファンも一緒になってこの厳しい状況を変えていくという思いになっている。球団の熱意も伝わってくるし、選手たちが本気で前を向いてやっていることもわかる。こんな時代が来るなんてね」。

 生まれ変わったライジングが発動してからの成績は12勝5敗。今年一年。ずっと悪い流れの泥濘で足掻いていたベイスターズが、ついに単独3位まで上がってきたのだ。もはや、負けテーマでもヤケチャンテでもない。

 秋のベイスターズは強い。ひとつになったベイスターズはもっと強い。

 まずは今日の東京ドームでの巨人との最終決戦。おじさんは信じてる。

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