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中国の奥地に住む「ラブドール仙人」に弟子入りした話

200平米の家に8体のラブドールと住む60歳

2018/09/03

genre : エンタメ, 国際

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離婚して父子2人暮らしだった

「ニイハオ。わしが離塵だ」

 庭の果樹園で野良作業をしていた野球帽のおっさんが握手を求めてきた。彼こそ、山奥で8体のラブドールと共同生活を送るラブドール仙人である。自宅はこの地方としては相対的に裕福な感じで、2階建ての立派な家であった。

仙人の自宅。山奥だけに水と空気はかなりきれいだった。なお、彼の「娘」たちが暮らすのは2階の部屋である ©安田峰俊

 話を進める前に、中国メディアがすでに報じた内容にもとづいて、貴州省の「ラブドール仙人」こと離塵のプロフィールをご紹介しておこう。彼は2004年に離婚し、まだ幼い息子の洋洋くん(現在19歳)を引き取って父子2人の暮らしを営むことになった。

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 その後、一時期は再婚を考えるガールフレンドがいたというが結局別れてしまう。そこで2014年、仙人はなぜか「自分の娘がわり」にラブドールの小雪ちゃんを購入した。その後、ドールを買い増したり他人から譲られたりしているうちに、8人の「娘」を抱える大所帯になってしまった。

「あんたの親父は変態なのでマネをしてはいけない」

 過去に別れた妻は、息子の洋洋くんに「あんたの親父は変態なのでマネをしてはいけない」と伝えているそうだが、洋洋くんは父親の趣味に好意的であり、コスプレさせた小雪ちゃんを貴州省のコミケに連れて行ったり、いっしょに写真やムービーの撮影をおこなったりと楽しく暮らしていた。

「娘」の誕生日パーティーを開く仙人(左手前)と洋洋くん(中央奥)。いい笑顔だ。中国の動画メディア『梨視頻』より

 2016年、仙人は洋洋くんの18歳の誕生日に彼専用のラブドールをプレゼントしている。「わしはドールを性的な目的には使っていないが、息子がどう使うかは本人に任せる」と中国メディアの取材に対して答えているが、洋洋くんも彼のドールを成人用途には使わず、「妹」と呼んでかわいがっていた。

 ……とまあ、もはやどこからツッコんだらいいのかも不明な、マンガの登場人物みたいな父子である。なお、洋洋くんは今年になって沿海部に働きに出てしまったので、残念ながら私の取材時には不在だった。

趣味に一点集中型でお金を注ぎ込む

 仙人の家は数年前に新築したばかりで、2階建で床面積が200平米くらいある立派な建物だ。1階は台所とダイニングと、先祖を祀る部屋と客間(後述)、2階にあるのはリビングと広めのベランダと、仙人の寝室、洋洋くんの寝室、ラブドールの保管室だ。

地元の少数民族衣装のコスプレをさせたラブドールの小雪ちゃんの写真を、大画面テレビに映して見せてくれる仙人。文化大革命世代とは思えないサイバーぶりである ©安田峰俊

 リビングにはシャープ製の大画面テレビと、画像・動画編集用のパソコンと、ニコン製のデジタル一眼レフがあるほか、高速のWi-Fiが通っている(海外のネット上のラブドール掲示板を閲覧するためにVPNにも加入している)。

 いっぽう、仙人の車は10年ものの中国メーカー製のセダンで、服装も質素。食事はなかば自給自足だ(家の裏を流れる漣江で魚を取ったり庭でハチミツを作ったりしている)。どうやら、自分の趣味に一点集中型でお金を使うタイプの人らしい。