「うちに泊まっていくと言い出したヤツは初めてだ」
「うちに泊まってくれるなんて嬉しいね。この家まで取材に来る記者は少なくないが、泊まっていくと言い出したヤツは初めてだ。部屋はいっぱいあるから、自分の家だと思ってくつろいでくれ」
仙人は笑顔でそう言って、私を客間に案内してくれた。割と清潔な部屋とベッドがあり、なんと部屋に併設したトイレまである(仙人は謎のこだわりを持っており、なぜか一軒の家に4つもトイレを作っていた)。
ただし、部屋のなかには小柄な女物のジャージとジャンパーとパンティ、さらにチャイナドレスと迷彩服が吊られている。2階の保管室に入り切らなかったラブドールのコスチューム置き場らしい。私はこの部屋で寝起きすることとなった。
「小雪が来てから毎日がすっかり変わってしまったよ」
では、そろそろラブドール仙人へのインタビューをご紹介しよう。ちなみに仙人の前職はなんと、地元の県(日本の町村に相当)の疾病予防センターの検査員だ。現在は一線を引いてたまに会議に出席したり、地元の友人の会社が売っている健康食品のコンサルをしたりしながら、ラブドールとたわむれる悠々自適の生活を送っている。
――離塵さんはガールフレンドと別れた後にラブドールに傾倒したと聞いていますが、最初の1体を購入するまでの経緯をもう少し詳しく聞いていいでしょうか?
仙人 最初は人恋しかったからだ。当時は県城(日本で言う町村の中心部)に住んでいて、親戚も少ないし息子は学校に通っているし。ラブドールの噂を聞いて、まずはネットで見てみたんだ。中国メーカーの大部分の製品は造形が荒くて見るに耐えなかったが、日本の製品と、中国でもEXDOLLの製品はアリだった。
最初の1体だから、あまり高いものを買ってはいかんと思って、中国製のEXDOLLの小柄なモデルを選んだ。それが小雪だ。彼女が来てから毎日がすっかり変わってしまったよ。
リアルすぎるほどリアルな中国の日常
――どう変わったんでしょうか。
仙人 小雪が来た2日目に衣装を着せて動画を撮ってみたんだが、これが楽しくてね。わしは気が若いほうで、20歳にもならない息子とも世代の差をほとんど感じていない。デジタルガジェットやコスプレなんかも好きなのだ。さいわい、故郷の貴州省は自然がきれいだし、小雪にいろんな服を着せると実に映える。
コスプレは、ネットゲームのキャラクターとか、中国の伝統衣装だとか少数民族の衣装だとか、ミリタリーだとかの格好をさせるのが楽しい。あと、生活感があるような写真を撮るのも好きだな。ほれ、見てみろ。リアルだろう。
――は、はい。リアルすぎるほどリアルな中国の日常です。
仙人 画像や動画をネットにアップして、ファンが付くのも嬉しい。『百度貼吧』(中国の大規模掲示板)や『The Doll Forum』(英語圏のラブドール愛好家が集まる掲示板)には、わしの作品を紹介するスレッドもあるぞ。