香港といえば香港島や九龍半島の賑やかな繁華街、オフィス街を想像してしまうが、実は230以上の島からなる。街を若者が埋め尽くした2019年の民主化デモやコロナ禍に揺れる香港の激動は、中心部から離れた地域ではどのように見えていたのだろうか。小さな離島の食堂に密着したドキュメンタリー映画『日泰食堂』の監督にインタビューした。
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香港島から船で南西へおよそ30分。小さな島・長洲は、細い路地が走り、港にたくさんの船が浮かんでいる漁村だ。島の食堂「日泰食堂」には、いつも島民たちがどこからか集まってくる。彼らは食事をしたり酒を飲んだり、時には遊びに興じ、冗談を言い合いながら思い思いの時間を過ごしているのだ。
第29回釜山国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した『日泰食堂』は、常連客のフェイメイをはじめ、店主の丈(ジョン)、妻として店を支える萍(ピン)らの日常を見つめた一本。ところが香港社会の変化や、世代間の価値観の違い、そして新型コロナウイルス禍が、やがてこの小さな食堂に影を落としていく――。
監督は長洲出身の新鋭フランキー・シン。本作が初めての長編ドキュメンタリー作品だ。
はじまりは「故郷の風景を撮る」こと
2019年、香港で民主化デモが始まった。刑事事件の容疑者を、中国本土や台湾など協定を結んでいない地域にも移送できる「逃亡犯条例改正案」に対して、司法の独立や自由が損なわれることを懸念する声が噴出。各地で大規模な抗議活動が広がったのだ。
映画『日泰食堂』は、食堂に置かれているテレビを通して、都市部で起きている“変化”が伝えられている場面からはじまる。激動する時代と、穏やかな離島の食堂。映画全体を象徴するかのような、印象的なオープニングだ。
常連客のフェイメイはシン監督の幼なじみ。日泰食堂の取材をはじめたのは、「時代の変化」を撮ることではなく、自分が育った場所へ戻りたいという個人的な思いからだった。
「長洲を離れて8年、自分の育った場所を見に帰りたかったのです。18歳の頃、私はフェイメイたちとこの島で遊んでいました。みんな学校に通い、社会に出て、なかには結婚した人もいる。長洲が観光地へ変わってゆくなか、この食堂や島の人々が、世界の変化にどう向き合っているのかを見てみたかったのです」
シン監督は1989年生まれ。20歳で留学のため台湾に移住したあとも、日泰食堂には島に戻るたび足を運んでいる。いわく「血のつながりこそないけれど、まるで自分の家のような場所」。長い時間をかけて親しくなり、互いに信頼関係を築き上げてきた。

