5月20日、森ビルが社長交代を発表した。6月23日の株主総会で辻慎吾社長(65)が会長に就任し、向後康弘取締役常務執行役員(58)が後任社長となる。

 同社の社長交代は15年ぶりとなるビッグイベントである。辻社長は会見で、「未来に向けて世代交代をすべきだと考えた」とメッセージを発したが、森ビル元幹部はこう語る。

「創業一族の森家は9割以上の株式を持っていて、15年間トップを務めた辻さんとは微妙な力関係のもとに成り立ってきました。社長交代が決まるまでの間、両者は水面下で長い戦いを繰り広げてきたのです」

 六本木ヒルズや虎ノ門ヒルズをはじめとした大型開発を手掛け、「港区の大家」の異名を取る森ビル。売上高4000億円超を誇る日本有数のデベロッパーは、社長交代をいかにして実現したのか。その内幕をレポートする。

森ビル(同社HPより)

 辻氏が社長に就任したのは2011年6月のことだ。頭角を現したのは、2003年に竣工した六本木ヒルズの開発である。集客力を高めて資産価値を向上させる「タウンマネジメント」と呼ばれる手法を取り入れ、六本木ヒルズを東京のランドマークの1つに育て上げてきた。

 新社長となる向後氏は、辻氏が2001年に「タウンマネジメント準備室担当部長」を務めた頃から、準備室事務局に所属するなど、部下として盛り立ててきた。“子弟関係”はその後も続き、向後氏は執行役員となって以降も秘書室部長などを兼務して辻氏を支えてきた。

 そんな向後氏のことを、辻氏は「森ビルという企業の根幹を最も理解している後継者」として、信頼をおいてきたという。向後氏も社長発表の会見で、「入社してから30年以上、辻社長の背中を見て『都市づくり』を学んでまいりました」と語ったが、元幹部は「辻さんは代表権のない会長に就くけれど、今後は“院政”が敷かれるのではないかと見られます」と指摘する。

 

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 社長が、信頼する側近を後継指名することは、自然な人事に見えるかもしれない。だが、こと森ビルにおいては、そう単純なものではない。同社には絶大な株主権を持つ創業一族・森家が君臨するからだ。

「森ビルは、創業者である森泰吉郎氏の次男・稔氏の時代に事業を拡大。稔氏は“中興の祖”と呼ばれるようになりました。現在は、稔氏の娘婿である浩生氏が副社長を務めています」(森ビル関係者)

 森ビルは財閥系の三井不動産や三菱地所などとは違い、非上場を貫き、森一族が株式の9割超を保有し続けている。有価証券報告書によれば、昨年3月末時点で70.24%の株を持つ筆頭株主は、森稔氏一家の資産管理会社「森喜代」で、25.61%を持つ2位株主の「森磯」は、稔氏の兄で慶応義塾大学の教授を務めた故・森敬氏一家の資産管理会社である。

 現在7人いる取締役のうち、森家出身者は2人だ。副社長の浩生氏に加え、彼の娘である泰子氏が今年1月、新たに取締役に就任した。

 創業家出身者が企業の取締役に名を連ねるのも珍しいことではない。森ビルが特殊なのは、最近、取締役になったばかりの泰子氏が、筆頭株主である森喜代の社長も兼ねていることだ。

「稔さんが2012年に亡くなると、佳子夫人が森喜代の社長に就きました。2024年6月からは、可愛がっていた孫娘の泰子氏に森喜代の社長を任せています」(森家関係者)

 すなわち、森ビルの事実上のオーナーは、まだ33歳の泰子氏ということになる。普段は辻氏や向後氏の部下として働いているが、いざとなれば彼らはおろか、実の父親である浩生氏に対してすら、“株主権”を行使して取締役の職を解任できるのだ。

 それなのになぜ、父親である浩生副社長は、森喜代の社長に就かなかったのか。

「浩生氏は東大卒業後、日本興業銀行(現・みずほ銀行)に入行。稔氏の娘である京子さんと結婚して、1995年に森ビルに入社しました。当初は森ビルの社長候補と見られていましたが、稔氏と佳子夫人は娘婿である浩生さんの経営手腕を評価せず、頼りなく思っていた。結局、稔氏が森ビルの社長として白羽の矢を立てたのは辻氏で、佳子夫人は浩生氏を森喜代の社長にも選びませんでした」(同前)

 それは娘の泰子氏も同様だった。森喜代の社長として臨んだ今回の人事でも、浩生氏を森ビルの社長に据えることはなかった。結局、浩生氏は森ビルの取締役には残るものの、副社長から外れ、グループ会社の相談役および、森記念財団理事長に就任することとなった。

15年間の長期政権を敷いた辻社長 ©時事通信社

森家が抱いてきた複雑な感情

 今回の社長交代を巡っては、「森ビル経営陣は株主である森家と十分な協議を行ってきた」(前出・森ビル関係者)と胸を張るが、ある森ビル社員は「実は、森家はかなりの時間をかけて辻氏の首に鈴を付けました」と声を潜める。

 その言葉を理解するためには、森家が辻氏に抱いてきた複雑な感情を理解する必要があるだろう。

 この続きは「週刊文春 電子版」で配信中。15年にわたる“辻体制”の評価、森家が辻氏に複雑な感情を抱いてきた理由、虎ノ門ヒルズ竣工を巡って起きた「ある出来事」、“オーナー”泰子氏が社長交代に際し繰り広げたやり取りなど、詳しく報じている。

この記事の詳細は「週刊文春電子版」でお読みいただけます
【創業一族が動いた】森ビル15年ぶり社長交代の内幕《剛腕社長の首に鈴を付けたが…》

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