誰が描いたのだとか、何が描いてあるのだとか。絵を観てそういうことを知ったり理解したりするのは、もちろん楽しい。でも、絵に直接語りかけられるような体験ができればもっと最高で、そんな機会は稀に、そして不意にやってくる。
東京六本木のギャラリー、シュウゴアーツで9月8日に始まった近藤亜樹個展「あの日を待つ 明日を待つ 今日」は、まさにそういうことが実現した場だ。
生命感に満ちた新作群
近藤亜樹は2010年ごろから、精力的に作品を生み出し続けてきた絵描きである。
「描くことは生きること」。そう断言する彼女が描く絵は、モチーフがなんであれ、エネルギーのかたまりが画面にぎっしり詰まっているかのよう。
だから、観る側は一枚ずつの絵と対面するたび、だれか大切な人と出会うときと同じような気持ちを味わえる。剥き出しの生命そのものと、向き合っている気分になるのだ。
今展で観られる新作は、いつにもまして生命感に満ちている。これらは今年になって描かれたものばかりなのだが、近藤はこの時期、特別な経験を重ねていた。
2月、瀬戸内の小豆島で入籍し、新しい生命を授かった。
2週間後、夫が南インドで急逝する。
哀しみに堪えて、ひとり実家のある札幌に戻り、8月に男児を出産した。
そうした経緯の中で生まれてきた絵画。「描くことは生きること」という近藤亜樹の言葉が、すとんと腑に落ちていく。
個展スタート前に、彼女から話を聞く機会を得た。彼女の言葉を噛み締めながら、作品と向き合ってみたい。