「ロングシュートは打つな!」世界的にシュート数が減っている現実
ただし、こういう選手の危機察知の直感は、統計的に正しいことがわかってきました。
プレミアリーグに統計学を駆使して補強と戦術を決めるブレントフォードというチームがあります。オーナーはスポーツベッティング関連事業で大儲けした元数学者のマシュー・ベンハムで、クラブがイングランド4部にいた2007年から投資を始め、2012年に完全なオーナーになりました。
統計学的アプローチの正しさは成績が証明しています。2021年にプレーオフを勝ち上がって昇格し、現在4シーズン連続でプレミアリーグに在籍しています。
彼らはデータを分析した結果、「シュートはできるだけ近くから、そして中央から打て!」、「ロングシュートは打つな!」という結論に達しました。
遠くから運任せでシュートを狙うのは逆効果で、代わりにゴールに近い場所にいる味方にパスをした方が勝率は上がるという考え方です。
ベンハムの会社の元社員が書いた『エックスジーニアス確率と統計で観るサッカー』(イースト・プレス)という本によると、ブレントフォードの練習場では「このラインを越えるまでシュートを打ってはいけない」という線が引かれていたそうです。
2018年から2025年までブレントフォードを率いたトーマス・フランク監督はテレビに出演した際、次のように説明しました。
「馬鹿げたエリアからシュートを打ってはいけない。また、バランスの取れた判断ができない状態でシュートを打つ選手も注意する。なぜそんなことをする? チームメイトにパスを回せばいいじゃないか、とね」
他クラブも同じ結論に達しているのでしょう。
プレミアリーグでは試合あたりのペナルティエリア外からのシュート数が年々減っており、23─24シーズンが9.1本、24─25シーズンが8.2本でした。
統計的にゴールの確率が高まる「ビエルサゾーン」
では、どこから打つのがいいのか?
ひとつ目安になるのが「ビエルサライン」で区切られたエリアです(図2)。
「ビエルサライン」とは、アルゼンチンの奇才マルセロ・ビエルサ監督が考案した基準線で、ゴールポストとペナルティエリアの角を結んだ線です。この線とペナルティエリアの横線で囲まれた台形エリアが「ビエルサゾーン」です。Vのような形をしているので「Vゾーン」とも呼ばれます。ゴールマウスを捉えやすいので、ここからシュートを打つと統計的にゴールの確率が高まります。
もちろん遠くからスーパーロングシュートが決まることもありますし、強引に打ったシュートが相手に当たって軌道が変わって入ることもあります。トライが何かを起こすことがあるのも事実です。
くどいようですがサッカーに正解はありません。セオリーで打つべきでないときにあえて足を振ると、相手の意表を突けることもあります。
自信があった? シュートコースが見えた? 裏をかいた? それとも単に手詰まりだった? そんな感じで選手の気持ちを想像すると、観戦の楽しみが増えると思います。

