左右の肺に、肉眼ではみえないほどの小さな穴が開けられた結果、肺からもれた空気がどんどん胸腔にたまり、たまった空気の圧で心臓を圧迫する「両側緊急性気胸」を発症してしまった。これが女性の死因です。
この事件は裁判となり、業務上過失致死傷に問われた施術者には懲役3年、執行猶予5年、罰金50万円の有罪判決が言い渡されました。ただし、この事件は決して特殊なものではなく、過去には同様の症例が学会で複数報告されています。
ちなみに、肉眼ではみえない穴の存在を証明するために、私が考案した解剖方法があります。それは肺の表面に洗剤を塗って、気管から空気を送り、しぼんでいた肺を膨らませる方法です。穴が開いていた場合、肺の表面にはシャボン玉がぷくっと泡立つような動きがみられます。
穴がみえなくても、空気が出ている証明をすればいい。この方法は自転車屋さんのパンク修理と同じ原理ですが、気胸の証拠として私が発案した方法として学会で発表しています。
刃物で襲われたら守るべき2つの体の部位
解剖の知識は、身を守るためにも役立ちます。
刃物をもった相手が自分に襲いかかってくる。
人生で絶対に起きてほしくない事態ですが、もしそのような場面に遭遇した場合、生存率を上げる方法はあるのでしょうか。
まず、原則として守るべきは「腹」よりも「胸」と「首」です。心臓から出た大きな動脈を刺されるのが最も危ないからです。
心臓は普段は肋骨で守られていますが、骨と骨の間をすり抜けてしまえば、刃物は意外とたやすく心臓に達し、即死に直結する可能性が上がります。前面、つまり胸側からはもちろん、背中から刺された場合も同じです。
首もまた注意すべきです。首には心臓に近い大きな動脈が通っている上、骨には守られていません。
一方で、お腹であれば相当深くまで刺されないと致命傷にはいたりません。腹部にも動脈は通っていますが、その手前にお腹まわりの脂肪や小腸、大腸があるため、刃物を刺しても太い動脈まで達するのはなかなか難しい。また仮に小腸や大腸などを刺されたとしても大きな血管が切れない限り即死はしません。